
実りの季節を待って再びケベックを訪れた僕は、「幸」という言葉の意味をずっと考えていた。「しあわせ」とも読むし「さち」とも読む。「さち」は海の幸、山の幸という時の「さち」。「幸」はなんて奥深い言葉なんだろう。
海から山から大地から、僕らのもとにもたらされる「さち」は、心の底から人々を「しあわせ」にしてくれる。
おいしそうなものを見ると、誰もが自然と顔がほころんでしまう。料理を目の前にして、そこから立ちのぼるかぐわしい香りを嗅ぎながら、ずっと不機嫌でいることなどできはしない。
ケベックは実においしいものに溢れている。中でも、日本ではあまり知られていないケベック西部の「シャルルボア」という洒落た名前を持つエリアは、まるで収穫の神様に愛でられているんじゃないかと思うぐらい「さち」に恵まれた土地なのだ。
だから僕はケベックに、そしてシャルルボアにいる間中、「しあわせ」と「さち」ということについて考えていた。
豊かな大地と収穫と、そこから生み出されるおいしい料理。もちろん、おいしさは食材だけ生み出されるものではない。おいしいものを作ってくれる料理人の方々にも心から感謝しながら、シャルルボアを巡る「しあわせ」いっぱいの旅に出かけたい。
僕はこの旅を勝手に「しあわせキュイジーヌ(cuisine)の旅」と名付けてみた。
思いっきり肩の力を抜いて、グルメとか、美食とか、食通とか、そんな難しい言葉をすべて忘れ、「さち」のありがたさに感謝しながら、シャルルボアをめぐるたびに出発したい。
この記事は2014年の取材に基づき、カナダシアターhttps://www.canada.jp/に掲載したものを加筆・修正しています。
しあわせ写真
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野菜の生命力
僕がシャルルボアで出会った野菜たち。日本のスーパーで見る野菜とは違い、形も不ぞろいだし色もピカピカではないけれど、僕は物凄い生命力を感じさせられたのを憶えている。