旅の物語

「TSUNAGARI(ツナガリ)旅」に出よう

第13回 「北限」ということ

函館、そしてカナダ

〔写真:温泉を楽しむ函館市熱帯植物園のニホンザル〕
「ああ、こんな文化があるからこういう食べものがあるんだ」「この土地の人が親切なのはこういう悲しい歴史があるからなのか」、そんなことを感じながら世界を、日本を巡る「TSUNAGARI(ツナガリ)旅」。次回からは函館を離れ、舞台を高知に移して連載を進めていきたいと思う。

〔写真:温泉を楽しむ函館市熱帯植物園のニホンザル〕
千歳での鮭を増やす試みとか、なぜ札幌は美味しいものに溢れているのかなど、北海道に関してはまだまだ語りたいことが山ほどあるのだが、再び北海道に戻ってくることを約束し、ここでは函館の呑気なニホンザルを話をしておきたい。函館の湯の川温泉にある函館熱帯植物園では、こんなふうにニホンザルが温泉に浸かってくつろぐ光景を見ることができる。


〔写真:温泉を楽しむ函館市熱帯植物園のニホンザル〕
強そうなサル、それにおべっかを使っているサル、ひとり(一匹?)離れて静かにお湯を楽しむサルと、まるで人間社会の縮図のようだ。そのうちにケンカも始まる。しばらくするとケンカも終わり、静かになる。そして何事もなかったかのように時間が経過していく。人間社会とそっくりだ。

〔写真:温泉を楽しむ函館市熱帯植物園のニホンザル〕
本来、彼らはここにはいないはずの動物だ。北海道と本州の間、津軽海峡には「ブラキストン線」という動物の分布の境界線がある。明治のころに北海道で暮らしたBlakistonというイギリス人が境界の存在に気づいたことからそう呼ばれるようになった。だから本州にいる熊はツキノワグマで、北海道にいる熊はヒグマだったりする。ニホンザルが暮らす北限は青森県の下北半島。でも湯の川温泉にはいるのだ。

〔写真:温泉を楽しむ函館市熱帯植物園のニホンザル〕
1970年に温泉の熱を利用して植物園がつくられ、その翌年にサル山もつくられた。そして本州から北限を超えて20頭のニホンザルが連れてこられ、約50年間にわたって世代を重ねてきた。人ではないが移民みたいなものだ。カナダでは、明治のころに日本人移民が北限を超えて温州ミカンを持ち込み、柑橘類の育たない土地で人気を集めたという話を聞いた。

今、バンクーバーのグランビルアイランドのマーケットでは当然のように山積みのオレンジを見ることができる。人間が「境界線」を越えて移動し、知恵を与え合い、理解を深めあい、見知らぬ食べ物を持ち込みあい、お互いに豊かになっていく。ロシアがウクライナに侵攻して食べ物が世界を自由に行き来できなくなっただけで、なんだか世界中で幸せが減ってきている。函館のニホンザルだって、寒い北海道で暮す人たちを楽しませ続けてきたのだ。まあ、本意ではなかったかもしれないけれど。移動できる喜び、なんの問題もなく「境界線」を越えて旅ができる喜びを改めて感じながら、高知で「TSUNAGARI(ツナガリ)旅」を続けようと思う。
〔続きを読む〕第14回 高知はおいしい

しあわせ写真

北限を超えて函館で暮らすニホンザル

本来はいるはずのない北海道の函館で暮すニホンザル。彼らは「北限」を超えて連れてこられた。函館に行ったらちょっとのぞいてほしい。ずっと見ていると知らないうちに結構、時間が経っていると思う。