〔写真:楮の皮はぎの様子〕
高知県吾川(あがわ)郡いの町(いのちょう)にある「鹿敷製紙(かしきせいし)」では、まだ暗さが残る早朝から楮蒸し(こうぞむし)の作業が行われていた。きのう僕が見せてもらったように、収穫することをやめた農家の畑で楮を収穫させてもらったり、あるいはまだ栽培を続けている農家から楮の枝を納品してもらたっりしながら和紙生産に必要な量の楮を確保している。
〔写真:楮蒸しの束を立てて、蒸す準備を進める〕
その楮を蒸して柔らかくし、一番外側の黒っぽい皮をはぐ。和紙の原料となるのは黒い皮のすぐ内側にある白い「靭皮(じんぴ)」と呼ばれる繊維の部分だ。楮を蒸すには、湯を沸かしたかまどの上に束ねた楮の枝を置き、上から巨大な桶を逆さにしたような「こしき」と呼ばれる道具をかぶせて密閉するのだが、製紙会社に「こしき」があるはずもない。本来、乾燥した状態の白い和紙の原料を農家から納品してもらい、そこから和紙をつくるのが製紙会社の役割なのだから。
〔写真:みんな総出で蒸しあがった楮の皮をむく〕
しかし今や、製紙会社自ら楮を収穫し、蒸して皮をはがなくてはならなくなった。「こしき」を持たない鹿敷製紙ではブルーシートをかぶせて楮を蒸している。高知大学地域協同学部の田中求先生のアドバイスによる知恵なのだそうだ。2時間ないし2時間半ほど蒸した後、ブルーシートを外してすばやく水をかけて楮を取り出す。水をかけることで急速に冷えて皮が収縮し、固い枝から皮をはぎやすくなるのだ。
〔写真:長年、この作業をしてきたお母さん方の作業は実に手早い〕
時間が経ってしまうと逆に蒸した楮が冷えて皮をはぎにくくなってしまう。だから楮はぎはスピード勝負。みんな総出で皮をはいでいく。根に近い太い方から先端に向かって皮を「するん」とはぐ。ここで大活躍しているのが子供のころから楮はぎをしてきたご高齢のお母さん方。明らかに作業が早い。次々と皮をはいで横に置き、ある程度量がまとまると手際よく束ねていく。蒸しあがった楮が新たに追加されるので、みなさん手を休めることはない。
〔写真:はがされた楮の皮〕
これがはがされた楮の皮だ。ただしこれは、まだ和紙の原料づくりのスタートラインに立った程度と言えるだろう。ここから皮の黒い部分を削り取ったり、乾燥させたり、水にさらしたり、細かいゴミを取ったりと、とにかくわれわれが「和紙」と聞いてイメージする手漉きの作業に至るまでには、とんでもない時間と労力が費やされる。それを思うと、なおさら和紙の原料づくりの将来が心配になってしまうのだ。(つづく)
⇒〔シリーズを最初から読む〕第1回 旅が世界を救う
しあわせ写真
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楮の皮はぎの様子
蒸したあとの楮に冷水をかけると皮をはぎやすくなる。ただし、急いで作業しなければ皮ははぎにくくなってしまうので、鹿敷製紙は早朝から大忙しだった。