旅の物語

カナダB級グルメの旅

第9回・完 モチモチのベーグルと眠らない街

ケベック州 モントリオール

カナダ第2の都市、モントリオール。プティーンやスモーク・ミートなどおいしいものはたくさんあるけれど、絶対に忘れてならないのがベーグルだろう。

なにしろモントリオール式のベーグルは、ニューヨーク式と並んで北米を代表する2大ベーグルの1つなのだ。

モントリオールのベーグル店と言えば2つ。「フェアマウント・ベーグル」と「セント・ビアター・ベーグル」だ。どちらも「24時間・365日営業」。例えばパン屋だって早朝から開いてはいるが、24時間営業の店はあまりないだろう。

「フェアマウント・ベーグル」で責任者のステファンさんに話を聞いたところ、「24時間・365日営業」の理由は極めて単純だった。買いに来る人がいるから店を開けている、とのことだ。ステファンさんいわく、「朝6時から9時ぐらいまでは学生が、そのあと昼間の時間帯は一般の客、15時以降はまた学生がやってきて、23時にクラブが店じまいした後は、警察官や消防署員、シフト勤務の人が買いに来るんだ」。つまり24時間入れ代わり立ち代わり、誰かが焼きたてのベーグルを求めて店にやってくる、だから「24時間・365日営業」なのだ。

モントリオールの街中には公用語であるフランス語があふれ、旧市街には石造りの建物と石畳が続き、その美しさから「北米のパリ」と呼ばれている。モントリオールと聞いて何がパッと浮かんでくるかは世代によって違うだろうが、例えば1976年のモントリオール五輪で、体操のナディア・コマネチが史上初の10点満点を連発したのを覚えている人も多いと思う。

あるいはモントリオールには「ノートルダム大聖堂」がある。映画「タイタニック」の主題歌を歌ったカナダを代表する歌手セリーヌ・ディオンが結婚式を挙げたのがここだ。モントリオールの街は大都市にもかかわらず緑があふれ、歩いていく少し先をリスが駆け抜けていく。カフェやレストラン、たくさんのバーが並び、夜まで楽しくワイワイ、ガヤガヤ。モントリオールは24時間、活気にあふれた「眠らない街」なのだ。

さて、モントリオール名物であるベーグルとは、そもそも何なのか。まずパンと決定的に違うのは、生地にバターを使っていないこと、そしてベーグルは焼く前にお湯で茹でるという点だ。さらに北米2大ベーグルであるモントリオール式がニューヨーク式と違うのは、生地に卵を使うことと、生地を茹でるお湯にハチミツが入っていることだ。

「セント・ビアター・ベーグル」では職人さんが生地をくるくるっとやって、次から次へとベーグルの輪っかをつくっていた。「フェアマウント・ベーグル」でも基本的に作り方は同じ。生地の真ん中に穴を開けてドーナツ型にするのではなく、細く伸ばしたロープ状の生地を手のひらでくるくるっとやって輪っかにしていく。このあと少しの間、生地を寝かせておく。

ねじられて輪っかになった生地は、ハチミツが入ったお湯に投入される。だからモントリオールのベーグルにはほどよい甘味がある。茹であがったベーグルには白ごまやケシの実などがまぶせられ、木の板の上に一列に並べて窯の中へ。

「フェアマウント・ベーグル」も「セント・ビアター・ベーグル」も窯、そして薪の炎という伝統をしっかり守っている。だからベーグルの焼け色もまちまちで、またその焦げ具合がいい感じのなのだ。そして、「フェアマウント・ベーグル」で見せてもらったなんとも楽しいシーンがこれだ。

焼きあがったベーグルを板ごと窯からひっぱりだし、「えいやっ」とやると、ベーグルが宙を飛んでケースの中にドサドサッと収まるという職人芸。ちゃんと順番を守りながら一列になって宙に浮き、行儀よくケースへ飛び込んでいくベーグルたちのなんと美しいこと。そうそう、みなさんは焼き立てのベーグルを食べたことがあるだろうか。ベーグルというと普通は常温で、スモークサーモンとかチーズがはさんであったりする。しかし焼き立て、熱々のベーグルはモチモチ、モチモチと歯ごたえがあって、噛んでいると甘味がふんわり口の中に広がるのだ。

ぬるものも挟むものも何も要らない。熱々、モチモチのベーグルはもう、それだけでおいしいのだ。もし機会があったら、モントリオールで何もつけない焼き立てベーグルを体験してみてほしい。夏も冬も、どんなに夜遅くても、店に来た人たちを迎えてくれるモントリオールのベーグル。焼き立てで熱々、モチモチのベーグルが「眠らない街」を支えているのだ。
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シリーズ「カナダB級グルメの旅」は2014~15年の取材に基いています。

しあわせ写真

モントリオールのベーグル

モントリオールを代表する味として、忘れてならないのがベーグルだ。熱々、モチモチの焼き立てベーグルをぜひ一度、味わってみてほしい。この味が24時間365日、モントリオールで暮らす人たちを迎えてくれる。こんな贅沢なことはないと思う。