旅の物語

「TSUNAGARI(ツナガリ)旅」に出よう

第16回 国産の原料でつくる和紙

高知、そしてカナダ、

〔写真:収穫後にたばねられた楮の枝〕
向こうの山を見渡せるほど高いところにある楮(こうぞ)の畑では、200年もの間、高知県いの町で土佐和紙をつくり続ける「鹿敷(かしき)製紙株式会社」の方々が、楮の
収穫作業をしていた。アジア各国から輸入した原料を使う「和紙」もあるので、そもそも「和紙とは何か」を定義するのは難しいと聞いた。そんな中で鹿敷製紙は、高知産をはじめとする国産の原料にこだわり続けている。

〔写真:楮の枝を刈り取る鹿敷製紙のみなさん〕
製紙会社の人が自ら畑に出向いて収穫をしなければならない。つまり、農家の方が面倒な作業を全部してくれたあと、「さあ、紙を漉(す)こう」となるわけではないことをこの光景は物語っている。和食の板前が魚をさばく前に、まず自分で漁に出なければならないようなものだ。それほどまでに、いや、それ以上に和紙の足もとは危機的な状況にある。

〔写真:広がってのびる楮の枝。この1本1本が和紙の貴重な原料となる〕
子どもたちは山を降り、高齢のご夫婦だけで暮らす山間部の家。体力も落ちるし病気にもなるだろう。楮を育てていくことが年々、難しくなっていくのは当然だ。あと1年、あと1年と懇願されて畑を続けたとしても、いつかは限界が来る。鹿敷製紙では、楮の畑を持つ農家との信頼関係を築きながら、楮を刈り取らせてもらっているそうだ。

〔写真:電動の剪定バサミで楮の枝を切っていく〕
鹿敷製紙のみなさんが、電動の剪定バサミや刈り込みバサミを使って楮の枝を切り落としていく。僕も微力ながら、そのお手伝いをさせていただいた。切ってみると、楮の枝は想像するよりはるかに柔らかかった。考えてみれば、この植物の繊維から和紙が作られるのだ。切りにくいほどに固い枝ならそもそも和紙には適さないのだろう。

〔写真:枝を切り取ったあとの楮の木。ここにまた新しい枝がはえてくる〕
だから楮は毎年収穫しなければならない。写真のように枝をすべて切り落としておけば、翌年にはまた柔らかな枝がはえてくる。しかし1年切らなければ成長し過ぎて和紙には使えないような太くて固い枝になる。
和食の板前が漁に出るようなものだと書いたけれど、その和食に使われる食材が全部、輸入物だったら、それは果たして「和食」と呼べるのだろうか。輸入した原料でつくった「和紙」も「和紙」であっていいのだが、もし使われる楮がすべて中国やタイから輸入されたものになってしまったら、胸をはって「和紙」と言えるのだろうか。
〔続きを読む〕第17回 あすは楮(こうぞ)を蒸してはぐ

しあわせ写真

収穫した楮の束

山の上の方にある畑で育てられた楮を収穫し、束にして運ぶ。このあと、いくつもの大変な工程を経て楮の枝は伝統の土佐和紙の材料となる。高知を訪れて僕も初めて知った和紙の危機的な現状を知ってもらいたい。