旅の物語

「TSUNAGARI(ツナガリ)旅」に出よう

第18回 イヌイット版画

高知、そしてカナダ

〔写真:故ケノジュアク・アシェバク作「魔法にかけられたフクロウ」〕
和紙の原料をつくるために楮(こうぞ)を蒸したりする話の前に、和紙や版画を通じた高知とカナダの深いTSUNAGARI(ツナガリ)について触れておきたい。写真の版画のタイトルは「魔法にかけられたフクロウ」という。イヌイット版画を代表する作家、故ケノジュアク・アシェバクさんの作品だ。こうしたイヌイット版画には土佐和紙などが使われ、その技法は日本の版画を「師」としている

〔写真:木など生えないケープ・ドーセットの集落〕
イヌイットは北極の近く、ヌナブト準州で暮らしている。カナダには10の州があって、それらがアメリカ合衆国と接するように位置しているの対し、ヌナブトなど3つの準州はいずれも北にあって人口も少ない。特にヌナブトは1999年、イヌイットの自治のためにできた最も若い州=準州だ。州都からさらに飛行機に乗ってやっとたどりつく集落ケープ・ドーセットがイヌイット版画の拠点だ。

〔写真:独特の世界観を持つイヌイット版画〕
極北の地には木が生えない。もうしわけ程度に背の低い草や花が生えるだけ。一方で、そこらじゅうに腐るほどあるのが岩と石だ。その上にへばりつくようにしてあるわずかな土の上にプレハブのような住居が点々と立ち並び、イヌイットの人たちが暮らしている。彼らはここで、その独特の感性をもとに不思議な世界観を持った版画を生み出している。

〔写真:われわれには生み出しえないイヌイットアートの世界〕
習ったり真似したりしても、われわれには生み出しえない作品だろう。はるか昔から極北の地で狩りをして暮らしてきたDNAと、祖先から語り継がれてきた神話の数々が体に染み込んでいなければ、こんな不思議なアートを生み出せるはずがない。そこに日本の和紙と、日本の版画技術が持ち込まれた。はるか遠くにあった2つが融合したことで、世界のアート界を驚愕させるような芸術が生まれた。

〔写真:イヌイット版画にある落款のようなデザイン〕
和紙とのツナガリ、日本の版画技術とのツナガリを示す証拠の1つが、多くのイヌイット版画に描かれている落款(らっかん)のようなマーク。「魔法にかけられたフクロウ」にも、落款めいたマークがある。高知の山の上の畑でとれた楮を蒸し、皮をはぎ、たくさんの工程を経て極上の和紙が生まれる。その和紙の上に、日本から伝えられた技術を駆使して極北のイヌイットがアートを描き出す。壮大な規模で日本とカナダ、高知とイヌイットはつながっているのだ。
〔続きを読む〕第19回 鹿敷製紙での皮はぎ

しあわせ写真

「魔法にかけられたフクロウ」

イヌイットの版画の作家を代表する存在、故ケノジュアク・アシェバクさんの「魔法にかけられたフクロウ」。精霊や神話の世界を感じさせつつ、「和」のテイストも漂わせているように思う。