旅の物語

アルバータの物語

第1回 Farm&Ranch

アルバータ州カルガリー、エドモントン

回、僕が訪れたのはアルバータ州最大の都市カルガリーだ。この空港にはこれまでにも来たことはあったけれど、それはカナダディアン・ロッキーの取材が目的だったり、オーロラで知られるイエローナイフへの乗り継ぎのためだった。

たぶん日本でも多くの人がロッキー観光やオーロラ観光でカルガリーを「経由」していることだろう。しかし今回の旅の目的地の1つはまさにここ、カルガリーだ。カナダを旅したことがなくても、1988年に冬季オリンピックが開かれているので名前を聞いたことがある人もいると思う。

カルガリーは石油産業の街であり、カウボーイの街でもある。だから空港ロビーには荒々しく疾駆する馬の像もある。もう1つの旅の目的地はエドモントン。日本ではあまりなじみがないけれど、エドモントンはれっきとしたアルバータ州の州都なのだ。

カルガリー空港ではいつもボランティアのお父さん、お母さん方がフレンドリーな笑顔で旅人を迎えてくれる。彼らの頭に乗っているカウボーイハットが、白地に赤いバンドが特徴の「ホワイトハット」。歓迎の意を伝えるカルガリーのおもてなしの象徴だ。

せっかくなので馬の像の前に移動してもらい、ホワイトハットを掲げて「YA-HOO!(ヤーフー!)」と叫ぶ、恒例の歓迎セレモニーをやっていただいた。あーあー、ハットが後ろの人の顔を隠しちゃった。もう1度お願いしてうまくいったのが、このページのトップ写真だ。

カルガリーとエドモントンがあるアルバータ州は、サスカチュワン、マニトバ両州とともに「プレーリー3州」と呼ばれている。3州はカナダ中央部の大平原を構成していて、小麦やキャノーラ油の原料となるアブラ菜の一種が生産される世界有数の穀倉地帯。その中心都市の1つがエドモントンなのだ。

一方のカルガリーでは、カナダを代表する味、アルバータ・ビーフが生み出される。だからカウボーイの街カルガリーは、「カウタウン」とも呼ばれる。ただし、この大平原に初めから小麦畑が広がっていたわけではないし、牛がのんびり草を食(は)みながら暮らしていたわけでもない。

カナダ建国から20年後の1887年、モントリオールを出発したカナダ太平洋鉄道(CPR)の機関車がバンクーバーに到着し、カナダは大西洋から太平洋まで続く大陸横断国家としての一歩を踏み出した。しかしそのころ、アルバータを含む広大なプレーリーには住む人などなく、大地を開拓する人はどこにも存在しなかった。

建国から20年を経てもプレーリーが「空っぽ」だったということは、その後、誰かがやって来て森を切り開き、土を耕し、種を撒いて畑をつくったということだし、誰かが牛を連れてきて育ててきたことを意味している。その長い長い積み重ねが、今のアルバータ州を作り上げた。

今回の旅で僕は、アルバータ州発展の「車の両輪」となってきた「農場」を代表するエドモントンと、「牧場」を代表するカルガリー、つまり“Farm&Ranch”を巡り、この土地で世代を重ねてきた人たちの話を聞かせてもらおうと思っている。

彼らは僕に、これまで知られていなかったアルバータの魅力や真の姿を教えてくれるだろう。そうして知った事柄から紡ぎ出すこの「アルバータの物語」を通じ、誰がこのカナダを「拓いた」のかを考えてもらえたら、と僕は思っているのだ。(つづく)

※この記事は2015年の取材に基づいて執筆しています。

⇒〔続きを読む〕第2回 一生ものの帽子

しあわせ写真

ホワイトハットとYA-HOO!

ホワイトハットはカルガリーのおもてなしの象徴。長旅を経て到着したカルガリー空港で、この白いカウボーイハットを手にYA-HOO!と叫んでもらったら、そうれはもう絶対にいいカナダの旅になるはずだ。