旅の物語

ケベック謎解きの旅

第9回 なぜ氷の上で競うのか

カナダ・ケベック州

わざわざ日本からケベックまでやって来て、僕は「謎解き」ばかりをしていたわけではない。ケベックの魅力や楽しさを紹介するのも今回の旅の大きな目的なのだ。
「Joie de Vivre」(ジョワ・ド・ヴィーヴル)
「生きる喜び」といった意味で、ケベックの人が大好きな言葉だそうだ。さすがフランス系・・・ええと、この書き出し、やっぱりどこかで既にやっている気がするのだが。

それにしても、氷に埋め尽くされたセントローレンス川でカヌー競争をするなんて、誰が最初に考えついたんだろうか。
昔、セントローレンス川に橋が架かっていなかったころ、人々はカヌーを使って対岸までものを運んでいたそうだ。そこからアイスカヌーレースが発想されたという説明を聞いいたのだが、さっぱり「なるほど」という感じにはならない。それがどうして氷上でのカヌーレースに発展するのだろうか。やはりケベックの人たちは氷点下だろうがなんだろうが、冬を楽しまないと気がすまないんじゃないだろうか。

凍っているからカヌーを「漕ぐ」という感じではない。氷が平らなところではスパイクの付いたシューズで氷を蹴っているという感じ。氷が砕けたところではカヌーを押したり、担ぎ上げたりして前に進んでいく。だから、「氷上カヌー運びレース」といった側面もある。
本来、全面が凍りついているセントローレンス川を砕氷船が行き来して船が航行できるようにしている。そして、砕かれた氷は時間帯によって逆流するため、レースに勝つにはこの流れをうまく先読みすることも求められる。

「セントローレンス川横断アイスカヌーレース」は、1955年にケベック・ウインター・カーニバルが始まった時からずっと開催されている、カーニバルのメインイベントだ。だから、とにかく街の盛り上がり方は尋常じゃない。

僕が観戦した2014年のレースでは、凍った川の岸壁に約1万人の観客が詰めかけ、氷点下の中で熱い声援を送っていた。この日のレースに参加したのは男女合わせて260名、52チーム。また初めての試みとして、セントローレンス川の両岸に巨大モニターが設置され、生中継までされたそうだ。ちなみに結果は、2013年まで23回連続で優勝していたホテル・シャトーフロントナックのチームが4位に終わるというハプニングがあったそうだ。

さて、僕の滞在中、ケベックではアイスカヌーレースだけではなく、北米の12歳以下の少年チームのアイスホッケー・トーナメントも行われていた。毎年ウインター・カーニバルと同じ時期に開催されていそうで、運よくそちらも取材することができた。
「少年チーム」と書いたけれど、女子が30人も含まれている。女子を加えるかどうかはそれぞれのチームの判断で決めるそうだ。


2014年のトーナメントに参加したのは129チーム。前回から8チーム増えたため、開催期間が1日増えて12日間になったという。それでも約150チームに対しては参加を断らざるを得なかったそうだ。

もちろん、アイスホッケーをやっているのは子供たちだけじゃない。ケベックには「REMPARTS」というプロのアイスホッケーチームがある。僕はこちらも取材させてもらったけれど、1部リーグではないにもかかわらず客席は地元ファンで埋め尽くされていた。
ケベックの人は
氷の上で競い合ってばかり。彼らは本当に冬を楽しむ天才なのだ。

この記事は2014年の取材に基づき、カナダシアター https://www.canada.jp/ に掲載したものを加筆・修正しています。

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しあわせ写真

アイスカヌーレース

凍ったセントローレンス川で繰り広げられるアイスカヌーレース。スパイクの付いたシューズで氷を蹴ったり、カヌーをみんなで担ぎ上げたり。それはもう「カヌー」と「漕ぐ」ことが必ずしも一体のものではないと感じさせられる、摩訶不思議で楽しいレースなのだ。