山口県最大の都市、下関(しものせき)市には、赤間関(あかまがせき)、あるいは馬関(ばかん)という別の呼び名がある。そのうちの赤間関の「間」には「馬」を当てる場合もあって、そこから転じて「馬関」の名が生まれたという。
〔写真:店頭に並べられたマグロの握り寿司。ネタがとにかく大きい〕
その下関の「唐戸(からと)市場」では週末や祝日、店頭に寿司を並べた屋台がひしめきあうイベント「いきいき馬関街(ばかんがい)」が開かれる。“寿司バトル”の異名の通り、「馬関」の誇りをかけて、それぞれの屋台が自慢の寿司や海鮮丼で客を奪い合う。
〔写真:左右に並ぶ屋台の間を歩いて品定めをする〕
ブラブラ歩きながらどの店の寿司にしようか品定めしていると、左右からひっきりなしに威勢のいい声が掛かる。ぼうっとしていると百戦錬磨のおかあさんに捕まってしまい、ほかの店を見られなくなってしまうので要注意だ。
〔写真:珍しい「鯨の尾の身」の握り寿司〕
他ではお目にかかれない下関ならではの「鯨の尾の身」や「ふぐ」(※下関では、濁らない「ふく」)といった握りもあって、どの店の寿司を食べるか簡単には決められない。ようやく心を決め、選んだ寿司を店の人に告げるとトングでパックに詰めてくれる。それを手に市場の外に出て、海を見ながら新鮮な寿司を頬張るのだ。
〔写真:関門海峡を前の前にしたベンチで買ってきた寿司を広げる〕
「関門(かんもん)海峡」を前にしたベンチには、既にたくさんの人が陣取っていた。グループの観光客や地元の家族連れらしい人たちもいる。寿司だけではなく、揚げ物とか汁ものなんかを購入している人もたくさんいて、ちょっとした宴(うたげ)のようだ。
〔写真:買ってきた寿司のパックを木のベンチの上で開いた〕
僕も自分のスペースを確保し、買ってきた寿司のパックを開ける。天気もいい。屋外で握りずしを食べるのも一興だ。もともとあった地域の強みである新鮮な海の幸を生かし、“寿司バトル”という美味しいイベントが生み出された。観光ってやっぱり、「ここの良さを見て見て!」という地元の人たちの熱意とアイデアがあってこそ成立する。だから旅する側もその気持ちに応えて、訪れた先に愛着を感じ、大切にするような観光が広がっていってほしい。
〔写真:関門海峡を行き交う船舶〕
海の対岸にあるのは、九州の門司(もじ)。この狭い関門海峡が、海上の交通や輸送で極めて重要な役割を果たし、数々の歴史的な事件を目の当たりにしてきた。大きなタンカーや小型の船が太陽の光で輝く海の上を行き交っている。風が頬を撫でてゆく。こういう時間と空間は人生において実に貴重だ。旅はやっぱり楽しいのだ。
⇒第2回「波の下の都」
しあわせ写真
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握り寿司は美しい
整然と並べられた寿司は実に美しい。「いきいき馬関街」のスタート直後しかこの光景を見ることができないのだ。