旅の物語

メープルシロップ ワンダーランド

第2回 メープルシロップは「さら、さら、さら」

カナダ・オンタリオ州

今、僕がいるのは、カナダの首都オタワの郊外にあるシュガー・シャック(砂糖小屋)、「ウィーラーズ・パンケーキ・ハウス」だ。シュガー・シャックというのは、砂糖カエデの木からその樹液(メープル・サップ)を採取し、メープルシロップを作っている生産施設。だから砂糖小屋と呼ばれている。


昔のシュガー・シャックは文字通りただの小屋だったけれど、現在ではメープルシロップづくりのほかに、メープルシロップの料理を楽しんだりできるレストラン兼観光施設みたいなものになっている。料理を楽しみ、メープルの歴史も少し学び、お土産を買って帰るという具合だ。そして「ウィーラーズ・パンケーキ・ハウス」はその名の通り、パンケーキが自慢のシュガー・シャックだ。それにしてもどうだろうか、僕の目の前でパンケーキの上に注いだメープルシロップが「さら、さら、さら」と流れていく。「さら、さら、さら」だ。


メープルシロップよりも先に、焼きたてのパンケーキの上をバターがゆっくり溶けながらすべり落ちていく。音で表現するとその溶け方は「シュシュシュシュシュー」という感じ。もちろん、実際にはそんな音はしないけれど。
「シュシュシュシュシュー」を追いかけるようにメープルシロップが「さら、さら、さら」。いっしょに流れついた先には、これまたメープル味のソーセージが待っている。


メープルシロップで味付けしたソーセージやベーコンもまた、メープル料理の定番中の定番だ。メープルシロップと肉料理って日本人にはあまりイメージできないかもしれないけれど、実はとってもよくあうのだ。
肉にあう、と聞いて頭の中にクエスチョン・マークが浮かんでくる人がいたら、それは甘味のくどい「メープル風シロップ」みたいなもののイメージが強すぎるからかもしれない。そんなことではまだまだ本当のメープルシロップを知らないってことだと思う。

メープルシロップがいかに肉料理にあうかを説明する前に、まずは多くの日本人がメープルシロップについて何も知らないことを分かってもらう必要がある。
例えば近所のスーパーなんかでは、こういうパンケーキシロップやケーキシロップが売られている。メープルシロップは入っているものの、もちろんこれはメープルシロップではない。


こうした商品を批判するつもりは毛頭ないので誤解しないでほしい。ただ、メープルシロップとは何かを伝えたいだけだ。スーパーなどでメープルシロップを買う場合は、必ず「100%」とか「PURE」と書いてあるかどうかを確認してほしい。ただし、「100%」とか「PURE」を選ぶなんてメープルシロップの入門編ですらない。


本物のメープルシロップを見つけたら、さらにラベルをじっくり見てほしい。大半のメープルシロップが「Canada No.1 ミディアム」と書かれているだろう。でも「Canada No.1」には3種類あって、「ミディアム」の上に「ライト」、さらにその上には「エキストラ・ライト」というグレードがある。
カナダでは「Canada No.1」から「No.3」まで3つの等級によってメープルシロップは区別されていて、さっき言ったように「No.1」の中にはさらに3つの種類がある。そして「No.2」はアンバー、「No.3」はダークと呼ばれている。

・Canada No.1 エキストラ・ライト(AA)
・Canada No.1 ライト(A)
・Canada No.1 ミディアム(B)
・Canada No.2 アンバー(C)
・Canada No.3 ダーク(D)

日本ではどこででも売っているわけではないけれど、ぜひ一度、輸入食品の店を覗いて「Canada No.1 エキストラ・ライト」を味わってほしいと思う。
エキストラ・ライトは、砂糖カエデから収穫された始めたばかりの樹液(メープル・サップ)で作られるシロップだ。樹液の収穫時期が遅くなるにつれてシロップはカラメル色が強くなり、コクと深みが増していく。

最高級のエキストラ・ライトは、軽やかで上品な甘味が特徴だ。そして何といっても、恐ろしくさらさらしている。だからパンケーキの上を「さら、さら、さら」と流れていくのだ。後味が本当に爽やかで「くどさ」は皆無。「さわやか」という言葉がぴったりのメープルシロップだ。
だからバゲットにかけても、その染み込み方が違う。すうっと軽やかにバゲットに馴染んでいく。
さて、ここでカナダを旅する方々に重要なアドバイスをしておきたい。お土産はミディアムでいい。でも自分用にはたっぷりと大きな容器でエキストラ・ライトを買って帰ろう。
ちょっとせこい話だけれど、エキストラ・ライトはなかなか日本ではお目にかかれないし、それに一度味わってしまったら、とても人にあげる気になんてなれないんだ。

この記事は2014年ごろの取材に基づき、カナダシアターhttps://www.canada.jp/に掲載したものを一部、加筆・修正しています。その後、メープルシロップの等級および呼び方は変更されています。

⇒〔続きを読む〕第3回 砂糖小屋のソーセージ

 

しあわせ写真

メープルシロップはさらさらと流れる

メープルシロップはパンケーキの上をさら、さら、さらと流れていく。もし蜂蜜をイメージしている人がいたら、かなり違うものなのだ。