旅の物語

カナダB級グルメの旅

第1回 愛しい悪魔は真夜中にささやく

カナダ・ケベック州、オンタリオ州

フライドポテトとチーズカード、それにグレイビーソースからなる超高カロリーな食べ物「poutine(プティーン)」。日本ではあまり知られていないけれど、実はカナダ人なら100%知っている代表的なB級グルメなのだ。

にもかかわらずこのプティーン、観光情報などにはあまり登場しない。まあ、それも当然だろうとは思うのだが。そもそもチーズカードという食べ物自体が日本では馴染みがない。チーズカードとは、チーズの製造過程でできる牛乳のたんぱく質が固まったもの。チーズの一歩手前の段階とでも考えればいい。僕はカナダの旅の最中に初めてチーズカードの存在を知った。チーズほど味は濃くはなくて、そこそこ塩気がある。まだ熟成させてないからだろう、かなり軽い味のチーズといった感じだ。

結構、弾力があって、歯にあたると「キュッ、キュッ」というか「キシ、キシ」というか、独特の音がする。なんでもこの音がすることが新鮮なチーズカードの証明なんだそうだ。ケベック州に住む人たちは結構スナック菓子をつまむように、おやつ感覚でチーズカードをつまんで口に放り込んでいた。酪農やチーズづくりが盛んなケベックだからこそ、という側面もあるのだろう。
もう1つのグレイビーソースは、言わずとしれた肉汁から作られるソース。たっぷりのフライドポテトの上にチーズカード、そこにグレイビーソースをかけまわす。これがプティーンの「基本形」だ。

さて、プティーンが実際にカナダ人にどれぐらい愛されているのかを知るために、僕は日本のカナダ観光局にお願いして、知り合いのカナダ人にプティーンが好きかどうか訪ねてもらった。
僕が一番秀逸だと思ったのは、ナイアガラ・ヘリコプターに勤務するアナ・ピアースさんという女性の回答だ。彼女によるとプティーンは「すべてのカナダ人に対する神様からの贈り物」なんだそうだ。そして、プティーンのいいところは、なんと言っても「1回食べれば、もう1週間分のカロリーを摂取できる(笑)」ということ。

さらに彼女はこうも言っている。
「こんなに健康に悪いんだから、美味しいに決まってるじゃない。プティーンのどこをとっても体に悪いことだらけ!」
これだけ本音で回答してくれたので、別に頼まれたわけじゃないけれど、ここで写真を掲載して彼女が勤務するナイアガラ・ヘリコプターの宣伝をしておきたい。

そもそも人間という生き物が誘惑にかられる場合、それは常に危険を伴うものだと思う。例えば、いつの間にか空っぽになっているワインボトルとか、別腹に入っていってしまうスイーツとか、気づいたら袋だけになっているポテトチップスとかー。
もう1人、素晴らしい回答を紹介したい。ケベック州政府観光局のロック・パケットさんという男性だ。
「プティーンは好きかって? もちろん!特に午前4時に食べるのが最高。モントリオールで夜通しバーを『はしご』した後、最後に食べるんだ。プティーンが好きじゃないって奴なんていないだろ?」

どうやらプティーンは、日本でいうところの飲んだ後の「シメのラーメン」みたいなものらしい。きっとプティーンという愛しい悪魔は、真夜中に酔っぱらいのカナダ人の耳元でこんなふうに囁くんだろう。「アタシを素通りして家に帰るなんて、アンタそれでもカナダ人なの?ー」そんなふうに誘惑されたら、日本人だってカナダ人だって、そりゃ意地でも引けないよなあ。
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シリーズ「カナダB級グルメの旅」は2014~15年の取材に基いています。

しあわせ写真

カナダを代表するB級グルメ「プティーン」

カナダ国民が愛してやまない代表的なB級グルメ「プティーン」。おいしくて満腹になって、そして体に悪いこと間違いなし(笑)。