旅の物語

カナダB級グルメの旅

第2回 国家的B級グルメ

カナダ・ケベック州

カナダの人々に愛され続けるプティーンはどのようにして誕生したんだろうか。調べてみると、かつてのカナダではプティーンが好きだと言うことすらはばかられるような、そんな雰囲気をまとった食べ物だったらしい。

カナダには他にも似たような例として、ロブスターがある。かつてロブスターは、フランス系の貧しい漁師が食べるもの、という扱いだったと聞いた。ただし、ロブスターは今ではカナダを代表する高級シーフードにまで出世したけれど、プティーンはさほど出世もせず、依然としてB級グルメ的な立場を守り続けている。つまり、上品であろうがなかろうが、とにかく「おいしい」という理由だけでみんなに愛され続けてきたのがプティーンなんだと思う。

 

例えば、冷えたご飯を焼きそばといっしょに鉄板の上で炒めちゃった神戸の「そばめし」なんか、発想としてはプティーンに近いんじゃないだろうか。富山のB級グルメ「ブラックラーメン」は、真っ黒でしょっぱいスープとたっぷりの黒胡椒、それに太い麺が特徴だ。これは戦後、焼け野原になった富山を再建する際、力仕事に従事する人たちのために、白いご飯の「おかず」になるラーメンとして考案されたと聞いた。一度ご賞味ください。血圧高めの中高年には禁断のしょっぱさなんだけど、それでいて時々無性に食べたくなるから、「ブラックラーメン」ってのは厄介なことこの上ない。

 

さて、翻ってプティーンはどうやって生まれたんだろうか。これには諸説あって、例えばある店でフライドポテトとチーズカードを買った客が、いっしょに紙袋に入れるよう頼んだところ、店主が「そんなことをしたら、ぐちゃぐちゃになるよ」と言ったという説が1つ。ケベックでは、プティーン=poutineは「ぐちゃぐちゃ」を意味する俗語なんだそうだ。

例えばこの写真は、僕がカナダ東部、プリンスエドワード島のハンバーガーショップで出会ったプティーンだ。フライドポテトとチーズカードに加え、ハンバーガーに使う挽き肉がどっさりと盛られ、そこにグレービーソースがかかっている。文字通り「ぐちゃぐちゃ」だ。プティーンの由来に関する別の説では、そもそもプライドポテトに特別なソースをかけたオリジナル料理を出していた店で、客が勝手にその料理にチーズカードを加えているのを知った店の主人が、新たなメニューとしてプティンを作りあげた、ということになっている。

いずれにしても、プティーン発祥の地はケベックで、その誕生は1950年代から60年代ぐらいということでは一致している。このぐちゃぐちゃで高カロリーの食べ物は、ケベック州、そしてカナダ全土へと広がっていったけれど、ある時期まではプティーンを好きだと公言するのは勇気にいることだったようだ。
例えば1991年、カナダ最大の放送局、CBCの記者が当時のケベック州の首相にプティーンが好きか尋ねたところ、「悪いけどいかないと。重要な会議があるので」とやんわりコメントを拒否されたんだそうだ。プティーンが大好きと言うのも恥ずかしいけれど、食べたことがないと言おうものなら嘘つきだと思われるのは必至、と心配したんだろう。

しかし今では、そんな空気は一掃されている。カナダ観光局にお願いした「プティーンは好きか?」という問いかけに対し、アルバータ州観光公社のダーリーン・フェドローシェンさんはこう言っている。
「プティーンのすべてが好きだわ。チーズたっぷりでねっとりしていて濃厚で。もう天国! だいたいプティーンを嫌いな人なんて、いるわけないわよ」
モントリーオールでの夜、プティーン専門店では女子大生たちが恥ずかしがる様子もなく、「プティーンは大好き」とニッコリしていた。

すっかり市民権を得たプティーン。しかも日本のB級グルメが地域活性化の切り札みたいになっているのに対し、プティーンはカナダ全土で愛されつつも、今のところ特にPRされることもなく、カナダへの観光客誘致に何の役割も果たさないまま独自路線を歩み続けている。
もしかするとプティーンは、日本からカナダへと観光客を引き込む可能性を秘めた隠された観光資源、カナダの国家的B級グルメなんじゃないだろうかー。と書いたものの、まあ、そんなことはないんだろうなあ、きっと。
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シリーズ「カナダB級グルメの旅」は2014~15年の取材に基いています。

しあわせ写真

モントリオールの夜に出会ったプティーン

飲んだ後の「シメ」のような存在でもあるプティーン。真夜中にこのボリューム。間違いなく「シメのラーメン」の上を行っている。