旅の物語

メープルシロップ ワンダーランド

第13回 春のパーティー・その1

カナダ・ケベック州

氷点下の厳しい冬がようやく終わりに近づいた頃、ケベックの人たちは親戚や友人を一堂に集めて楽しいパーティーを開く。シュガーリング・オフ・パーティーだ。まだ寒さが厳しい3月上旬、日中と夜間の気温差が一定の条件を満たすと、砂糖カエデの幹から樹液が流れ出すようになる。これが年に一度のメープルシロップづくりのスタート、そしてパーティーの季節が到来したという合図なのだ。

シュガーリング・オフ・パーティーでは本来、煮込んだ豆や豚肉など、素朴な「きこりの料理」がテーブルに並ぶのだが、最近ではもっとおしゃれで洗練されて少し豪華な料理がパーティーを彩っている。
ケベックの「ラ・ターブレ・ドゥ・ピオニエー」は、モントリオールの有名シェフと、近くのリンゴ農家の一家が協力して2013年にオープンさせた店だ。
建物はおよそ100年続くシュガーシャックの建物をベースにしていて、「小屋」というよりはレトロな雰囲気を漂わせるおしゃれなレストランという感じだ。

お勧め料理はフワフワのスフレオムレツ。それもただのオムレツではない。スモークサーモンと地元の新鮮チーズが乗っている。
スフレオムレツは確かにシュガーリング・オフ・パーティーの定番だけれど、このトッピングでぐっと高級感漂う料理になっている。それにしてもどうだろうか、このフワフワ、トロトロ感は。

豚肉料理は2種類。アイスワインを使って焼き上げたホロホロのプルドポークに、メープルシロップで煮込んでからスモークした豚肉。
同じ肉でも食感がまるで違っていて、それでいてどちらも柔らかくてボリューム満点だ。

もちろん定番の豆のスープや、メープルシロップでつくったベイクドビーンなんかもあった。この写真がベークドビーンだけれど、ほどよい甘さが本当に美味しかった。
実は、僕が「ラ・ターブレ・ドゥ・ピオニエー」を訪れた時、例年になく気温の低い日が続いていて、樹液の収穫は始まってはいなかった。それでもパーティーの開催日をずらすわけにはいかない、というよりも待ちきれないのだろう、店内では既に楽しそうなグループがフライング気味に春の訪れを祝っていた。

ご高齢の女性の集団は週に1回ぐらい、いっしょに編み物などをしているサークルのメンバーなんだそうだ。写真を撮らせてもらったら、いきなり古い民謡らしきフランス語の歌の合唱が始まった。意味を尋ねてみると、「Love Life」みたいなことらしい。皆さんの顔を見ただけでまさしく、人生を楽しんでおられるという感じがストレートに伝わってくる。

店内には昔のシュガーリング・オフ・パーティーの様子らしい写真が飾られていた。みんなが口にしているのはメープル・タフィだ。親戚や友人が久しぶりに顔を合わせる喜び、現代のように甘いものが氾濫していない時代の、できたてのメープルシロップの極上の甘み、そして、氷点下の冬がようやく終わるという喜びだ。
メープルシロップは単なる「砂糖」じゃない。「Love Life」を実感させてくれる特別な「甘さ」なのだ。

この記事は2014年ごろの取材に基づき、カナダシアターhttps://www.canada.jp/に掲載したものを一部、加筆・修正しています。

⇒〔続きを読む〕第14回 春のパーティー・その2

 

しあわせ写真

フワフワのスフレオムレツ

シュガーリング・オフ・パーティーの定番料理のひとつ、フワフワのスフレオムレツ。すおーくサーモンとチーズのトッピングでさらにおいしさがアップ。