旅の物語

日本・カナダ TSUNAGARIの物語

第1回 トーテムポールがやってくる

カナダ・スティーブストン、和歌山・三尾

カナダから日本に本物のトーテムポールがやって来る。「本物」というのはカナダの先住民アーティストがつくり、その手で「魂」が込められたポール、という意味だ。もちろん日本各地にトーテムポール「的」なものはたくさんあるけれど、本物となるとそんじょそこらにあるものではない。例えば1970年の万国博覧会跡地にある「国立民族学博物館」(みんぱく、大阪府吹田市)にも本物のトーテムポールがある。〔写真=みんぱくに展示されているトーテムポール〕

一方、今回トーテムポールがやって来るのは和歌山県の「三尾(みお)」という土地。ここにはかつて三尾村があったが、今は村ではなくなっている。1954年(昭和29年)、三尾を含む3つの村が合併して和歌山県日高郡美浜町(みはまちょう)となり、三尾村は美浜町三尾となった。国立の博物館ならともかく、たぶんほとんどの人が耳にしたことのない町の、その中のかつて村だった土地に本物のトーテムポールが立てられるのだ。これは普通ならあり得ないことだ。〔写真=三尾に送られる制作中のトーテムポール。中村マント氏(Manto Artworks)撮影〕

トーテムポールはカナダの太平洋岸、ブリティッシュコロンビア州のスティーブストンという漁港と、美浜町三尾の友情の証しとして贈られる。今から100年以上前、明治のころに三尾村からたくさんの村民が出稼ぎでバンクーバーの南にあるスティーブストンへ行き、男たちはサーモン漁に従事し、女たちはサーモンの缶詰工場で働いた。お金を稼ぐため、生きるために太平洋を渡ったのだろうと思う。〔写真=スティーブストンの港〕

カナダでお金を稼いだ人たちは三尾に戻り、村に洋風の家を建てた。外国の雰囲気漂う三尾は「アメリカ村」と呼ばれるようになった。本来なら「カナダ村」のはずなのだが、なぜか「アメリカ村」と呼ばれた。それはともかく、かつてのアメリカ村は今、人口が減り、高齢化が進み、小学校も廃校となった。三尾に元気になってもらいたい、そんな思いを込めてカナダからトーテムポールが三尾に贈られる。2月上旬にトーテムポールは船に積み込まれてバンクーバーを出発し、同月中に大阪に到着すると聞く。広大な太平洋をはさんだ日本とカナダ、三尾とスティーブストンを結ぶ「TSUNAGARI(ツナガリ)」の物語が始まるのだ。(続く)
〔写真=バンクーバー・ライトハウスパークから見る太平洋〕

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第2回 三尾のためのトーテムポール

 

しあわせ写真

先住民アーティストのダレン・イエルトンさん

三尾を元気にしようと「本物」のトーテムポールをつくった先住民アーティストのダレン・イエルトンさん〔写真=中村マント氏(Manto Artworks)撮影〕