旅の物語

ケベック・シャルルボア しあわせキュイジーヌの旅

第12回 「しあわせ」すぎる夕食

ケベック州シャルルボア

シャルルボアからケベック・シティへと戻る列車の時刻が近づいてきた。復路のル・マシフ鉄道は、「ポアン・オー・ピック(Pointe-au-Pic)」という駅からモンモランシー滝まで、夕景を眺めながら食事を楽しむ旅だ。

その夕食。一品目は、「ディル風味北欧産エビとマッシュド・ブルーポテトとグリーンピース、エビを重ねた前菜。アップルサイダーのクリームソースとドライド・オリーブ添え」。
ポイントはこのブルー・ポテトだ。

僕は「フェアモント・マノア・リシュルー」の厨房を見せてもらった際、ブルー・ポテトの皮をむいている光景を目にしている。ブルー・ポテトはケベックの人たちにとって結構、愛着のある食材なんだそうだ。
そして、ソースに「アップル・サイダー」が使われているというのは、やはりシャルルボア滞在中に見たシードルなんだろうと思う。
食事の途中、列車のスタッフから素晴らしい景色を見ることができると言われ、夕食をいったん中断して車両を移動した。

出口の方にまぶしい夕方の日差しが見えるトンネル。カーブする線路の向こうには落ちていく夕陽。光がセントローレンス川の川面に反射してまぶしい。ぜいたくな時間だと思う。
席に戻っての二品目は、「ホロホロ鳥のテリーヌ、ウズラの卵とロメインレタスのシーザーサラダ」。

ホロホロ鳥にはベ・サン・ポールのキジ農家で出会っている。あのホロホロ鳥はテリーヌに「トランスフォーム」したのか。そう言えば、あの農家ではウズラの卵も売っていた。ロメインレタスはトウモロコシにかぶりついた、あの店の野菜だろうか。

旅ももう最終盤だ。もうあたりも暗くなったし、風景を撮影することもないだろうということで、仕事モードを解除してワインを飲んでいたら、なかなかいい調子になってきた。

三品目は、「フェルム・バスクのアヒル肉とフォアグラのソーセージ、仔牛のぐるぐる巻きパテとキャベツとジャガイモのソテー、シャルルボア産フラカトゥーン・ビールとタラゴンのソース」。
なんだかカタカナだらけだ。
「フェルム・バスク(Ferme Basque)」とは、僕がシャルルボアで取材したフォアグラ農家。そのおいしさは、シャルルボアでこの農家を知らない人はいない、というぐらいなんだそうだ。

その生産量はケベック全体のフォアグラ生産の1パーセントを占める程度に過ぎす、シャルルボアでしか食べられない。
カナダ最大の都市、モントリオールのレストランにだってないし、お金を積んでも食べられないそのフォアグラを僕は食べている。
バゲットの上に厚くスライスしたフォアグラを乗せて粒の塩を軽くかける。この上質な塩がこってりとしたフォアグラをぐっと引き立たせてくれる。

最後のデザートは「チョコレートとメープルのクレーム・ブリュレ、シードリエ・エ・ヴェルジェール・ペドノーのリンゴとアップル・サイダーのメレンゲ、チョコレートケーキ」。あのクードル島のリンゴ農家のシードルを使ったメレンゲなのだ。
みんなお腹いっぱいでお酒が入って、車内はみんなの話し声と笑い声、それに熱気でいっぱいになった。この車内は、行きも帰りも「しあわせ」に満ちていた。

この記事は2014年の取材に基づき、カナダシアターhttps://www.canada.jp/に掲載したものを加筆・修正しています。

⇒〔続きを読む〕第13回 しあわせな人たちが暮らす場所

しあわせ写真

しあわせそうなアヒルたち

フォアグラをいただいた「フェルム・バスク」では、アヒルたちがのんびり日向ぼっこをしていた。どうしてみんな、同じ方を向いているんだろうと、じっと眺めながらシャッターを切ったのを思い出した。