旅の物語

アルバータの物語

第3回 TVカウボーイ

アルバータ州カルガリー

カウタウンの異名を持つカルガリーでは、カウボーイハットをかぶったりウエスタンブーツをはいたりしている人を普通の光景として見かけることができる。

そんな街のダウンタウンにある「Riley & McCormick」の店頭には、「WANTED real cowboys」の文字がある。そして店内には数え切れないほどのウエスタンブーツが並んでいた。帽子店の中がカウボーイハットばかり、というのに負けないぐらい、こちらも日本ではお目にかかれない光景だ。

本来、ウエスタンブーツというのは今よりずっとヒールが高く、かつ、足の真ん中あたり、土踏まずに近いところまでヒールがあったそうだ。
「昔、牛の群れを率いるカウボーイは陽が昇ってから暗くなるまでずっと馬に乗っていた。だからウエスタンブーツも馬に乗りやすいという観点から作られていたんだ」とこの店のブライアンさんが説明してくれた。

ヒールが高くて大きいウエスタンブーツなら足の中心に体重をかけ、鐙(あぶみ)をしっかりフックできる。それがいつしか牛舎でのエサやりなど、馬に乗る以外の仕事も増えてきたことからヒールは低く、平らなものに変わっいったのだという。

「ウエスタンブーツには紐でしばるタイプのものはないんだ。馬に乗っていてバランスを崩した時、ブーツがスポンと脱げないと馬に引きずられて大けがをしてしまう。ブーツが脱げて馬から落ちれば、鐙に引っかかったブーツだけが馬といっしょに遠くに行ってしまうだけだからね」

店内にはダチョウやワニ、ヘビなどさまざまな革で作られたファッショナブルなウエスタンブーツもたくさんあるけれど、紐で縛るタイプのものは1つもない。また、上の方が二股に分かれているブーツは、ふくらはぎが太い人がはきやすいようにと作られているし、ブーツに施された縫い目も単なるデザインではなく、型崩れを防ぐという意味がある。なにもかもが機能に裏打ちされていて、ウエスタンブーツって想像以上に奥が深い。

一番驚かされたのがこのブーツの底、土踏まずのあたりの膨らみだ。周囲は釘のようなものが打ち込まれてしっかり固定されている。実はこの膨らみのなかには鉄製の板というか棒のようなものが入っている。これによって鐙を強く踏みしめても重みを足全体に分散させることができるのだ。

確かに、1点に力を掛け続けたら足を痛めてしまうに違いない。ブーツを裏返してみて見れば、本当に馬に乗るためのブーツなのかどうかが一目で分かるのだ。どこかで披露してみたくなる薀蓄(うんちく)だ。

この店のオープンは1901年。もともと馬具であるサドルやハーネスを製造・販売していた。店の長い歴史を物語るように、店内にはカウボーイの祭典「カルガリー・スタンピード」で、パレードが「Riley & McCormick」の店先を通っていく写真が飾られていた。なんと1948年のスタンピードの時のものだ。

さて、ブライアンさんはブーツに関すること以外にもう1つ、ジーンズに関する薀蓄も教えてくれた。この写真で分かるだろうか。ジーンズの内側、股の部分だ。内側に縫い目があると馬に乗った時に足と擦れやすい。だから馬に乗って仕事をするカウボーイは、内側に縫い目のあるジーンズを好まないのだそうだ。

「カウボーイが刺繍やスナップボタンを施したウエスタンシャツを着るというイメージが定着したのは、1950年代のハリウッド映画や、その後のテレビによるものだ。本来、カウボーイは普通の作業着を着ていたんだ」
そんなカウボーイをブライアンさんは笑いながら、「TV(ティービー)カウボーイ」と呼んだ。

今度、時間があったら西部劇のDVDを見てみよう。馬に乗って何日も移動するのに、ジーンズの内側に縫い目があったり、作業には不向きなファッションをしたカウボーイを見つけることができるかもしれない。そんな時はひとり、上から目線でつぶやくのだ。
「これじゃあ、残念ながらTVカウボーイだな」と。
(つづく)

※この記事は2015年の取材に基づいて執筆しています。

⇒〔続きを読む〕第4回 太陽の下で

しあわせ写真

すらりと並んだウエスタンブーツの数々

「Riley & McCormick」の店内にずらりと並んだウエスタンブーツ。紐で結ぶブーツは1つもない。