旅の物語

アルバータの物語

第4回 太陽の下で

アルバータ州カルガリー

カルガリーのダウンタウンから車で1時間ほど。僕は4代にわたり家族で牧場を経営してきたという「Trails & Ranch」にお邪魔していた。

今回の取材のテーマは、誰がアルバータの大地を「拓いた」のかを知ることだというのは既に説明した。だからこうした牧場経営者がどこからやってきて、この土地でどんな歴史を紡いできたのかをうかがいたいと思っている。

家の前では愛犬が日向ぼっこをしているし、その近くではニワトリが太陽の光の下、勝手気ままにトットットットと動き回っている。少し離れたところには干し草ロールが並んでいて、やはり燦々と降り注ぐ太陽の光を浴びていた。

冬の間、牛たちのエサとなるこの干し草ロールは一見すると枯れ草のように見えるけれど、実はその内側は緑色のままなんだそうだ。そもそも牛たちは外側の枯れた部分は食べないので、枯れた草は牧草地に撒いて堆肥にしてしまう。それにしても、この内側に緑色のまま草がしっかり保存されているなんて想像もつかない。

さて、写真の左側がこの牧場の4代目のRachelさんで、隣が旦那さんのTylerさん。2人ともTVカウボーイとは違い、カウボーイハットもジーンズも実に自然でしっくりきている。干し草ロールの話に加え、2人に教えてもらったことがある。それは牧場者に「牛は何頭ぐらいのか」と聞かないほうがいいということ。「いくら貯金持ってる?」と聞くのと同じようなことらしい。

「Trails & Ranch」の牛たちは、家から少し離れた丘の牧草地に放牧されている。冬が近づいたらトレーラーに乗せて自宅まで運び、牛舎でひと冬を過ごさせるという。Rachelさんが車でその丘へと案内してくれた。いるいる。たくさんの牛が呑気に草を食んでいる。この丘は、1910年にこの牧場を始めた時に、創業者が購入した土地で、「Trails & Ranch」のルーツとも言える場所だ。

柵を開けてもらって中に入ると牛がどんどん近づいてきた。ちなみに柵のワイヤーの2段目には電気が流れているから、と注意された。牧場の取材は始めただけれど、それにしても知らないことばかりだ。そうこうしているうちに、あっという間に牛に取り囲まれてしまった。なんだか人懐っこい。

Rachelさんによると、ここにいるのはまだ1歳の牛たち。しかし、1歳の牛が太陽の下で牧草を食んでいる光景はなかなか見ることができないそうだ。
「多くの牛は、生まれたらすぐに牛舎に移されて飼料を与えられて大きくなります。そして肉にするのは1歳になる頃。でもうちでは、こうして外で牧草を食べさせて2歳まで育てるんです」とRachelさん。

牛のエサと言えばトウモロコシというイメージがあるが、ここでは牧草を食べさせている。考えてみれば、そもそも牛は草を食べる動物だ。人間が与えるまでトウモロコシを食べることなどなかったのは間違いない。しかもこの牧場では牧草を食べさせるだけでなく、2年かけてじっくり牛を育てていく。太陽の下で、本来食べるべきものを食べて育つ。当たり前のことを当たり前のように続けることこそ、アルバータ・ビーフの美味しさの秘密かもしれない。(つづく)

※この記事は2015年の取材に基づいて執筆しています。

⇒〔続きを読む〕第5回 カウボーイとフェンス

しあわせ写真

丘の上で牧草を食んで育つ牛たち

牛が本来食べるべきものを食べさせて育てる。そうやって育つ牛が少なくなっていること、そして、それを僕らが気にもとめなくなっていること自体、もっと考えるべきことかもしれない。