旅の物語

ケベック・シャルルボア しあわせキュイジーヌの旅

第6回 シルク・ド・ソレイユが舞い降りた

ケベック州シャルルボア

僕が乗った列車は、セントローレンス川に沿って東へと進んでいく。目指すはベ・サン・ポール(Baie-Saint-Paul)。収穫の神に愛でられた地、シャルルボアの中心地だけあって、ここは豊かな自然と実りに包まれた街だ。

車窓から差し込む光が朝のものから昼の陽ざしに変わったころ、列車は静かにベ・サン・ポールの駅に滑り込んだ。駅がホテルと直結していて、まだ駅の構内かと思っていたのに、いつのまにかおしゃれなホテルの中を歩いていた。

ホテルが建っている場所には、かつて修道院の農場があったそうだ。だからトイレの表示だってこんなふうにユーモアたっぷりになってしまう。男性と女性、どちらも長靴をはいているのを見逃さないでほしい。
宿泊棟はそれぞれ農家だったり、かつてここにあった修道院だったり、違うテーマで統一されている。

農家をテーマにした部屋は、現代的なデザインにもかかわらず、なんだか納屋みたいな雰囲気を醸し出している。部屋に置かれたテーブルは、なんとも愛くるしい豚だった。

修道院をテーマにした棟は白が基調だ。廊下の電気の傘は修道女のスカートをイメージしているそうで、ひらひらしている。
2012年にできたこのホテルの名前は、「オテル・ラ・フェルメ(Hotel La Ferme)」という。ここをはじめ、シャルルボアをおしゃれなエリアに生まれ変わらせたのは「シルク・ド・ソレイユ」の創業者の1人、ダニエル・ゴルティエ氏だ。

カナダを代表するエンターテイメント集団。動物がいないサーカス。鍛え上げられた肉体と技術、そしてユーモアだけで世界中の人々を魅了し続ける「シルク・ド・ソレイユ」は、同じケベック州でもモントリオールを拠点としているが、実はその発祥の地はここ、シャルルボアなのだ。
「シルク・ド・ソレイユ」を離れ、さまざまな事業に携わるようになったゴルティエ氏が2002年、経営的に行き詰っていたシャルルボアの観光の立て直しに着手した。

ゴルティエ氏はふるさとの再建に当たり、住民から意見を募集し、みんなにもこの取り組みに参加してもらうという手法をとった。ゴルティエ氏が子どものころから通っていたというスキー場は生まれ変わり、おしゃれなホテルも建設された。
カナディアン・ロッキー以東で最大の標高差を持つこのスキー場は、セントローレンス川へと滑り降りていような抜群のロケーションなのだ。

みんなで作り上げた新しいシャルルボア。そう言えば、ホテルを案内してくれた高齢の女性スタッフも、このホテルとこの土地が自慢でならない、という誇らしげな顔をしていた。
ゴルティエ氏によるふるさとへの「恩返し」が住民に誇りをもたらし、それがベ・サン・ポールに多くの人を呼び寄せる吸引力になっている。

 この記事は2014年の取材に基づき、カナダシアターhttps://www.canada.jp/に掲載したものを加筆・修正しています。

⇒〔続きを読む〕第7回 「創始者」がいた店

しあわせ写真

ベ・サン・ポール

教会を中心に、豊かな自然と実りに包まれたベ・サン・ポール(Baie-Saint-Paul)の街。僕は一泊しただけだったけれど、時間があれば心行くまでゆったりと味わいたい街だ。