旅の物語

ケベック・シャルルボア しあわせキュイジーヌの旅

第7回 「創始者」がいた店

ケベック州シャルルボア

「シルク・ド・ソレイユ」発祥の地、ベ・サン・ポールで、創始者であるダニエル・ゴルティエ氏やギー・ラリベルテ氏は高い竹馬に乗ったり、火を吹くような大道芸をやっていたのだそうだ。

僕はベ・サン・ポールで、若い頃にゴルティエ氏が「出入り」していたというレストランをのぞいてみた。店の名前は、「ムートン・ノワール(Mouton Noir)」。ポップな羊のマークが、恵み豊かなベ・サン・ポールという土地を象徴しているかのようだ。
この店の人気料理はなんと言ってもジューシーでボリューム満点のシェパーズ・パイだ。

イギリス料理であるこのパイには羊飼いの名前の通り、羊の肉が使われるし、アメリカでは牛肉が使われたりもする。そして「ムートン・ノアール」ではメープル・シロップを使って甘味を加えた豚肉が使われている。
パイの中にぎっしり詰まったメープル風味の豚肉を想像してほしい。「想像」と書いたのは、僕が食べるのに夢中になって写真を撮るのを忘れてしまったためだ。このパイは2009年、メープル生産者によるコンテストで、メープルを使ったナンバーワン料理に輝いたほどの逸品。だから僕が写真を忘れ、ひとり「しあわせ」な状態になってしまったのも致し方ないことだろう。

1976年にコンビニのような形態でスタートしたこの店は、80年代にはピアノ・バーやアーティスト・カフェ、あるいはライブバンドが演奏するカフェ・レストランへと姿を変えながら、ヒッピーやフォークシンガーなど、ベ・サン・ポールの若者たちに愛され続けてきたそうだ。
この店に出入りしていたゴルティエ氏はウエイター兼バーテンダーとして働くようになり、やがてこの店で、のちに「シルク・ド・ソレイユ」をいっしょに創設するギー・ラリベルテ氏と出会うことになる。

さて、ベ・サン・ポールには他にも押さえておきたい店がたくさんある。地ビールがおいしいパブ「ル・セイン・パブ・ミクロブルールリー(Le Saint-Pub Microbrewery)」もその1つ。
以前は店があるこの場所でビールを醸造していたのだが、おいしいビールが評判を呼び、近くに別の醸造所を建設して生産量を増やしたそうだ。

小麦を使ったビール部門ではカナダ全土で4回も「金賞」を獲得したというのだから、そのおいしさは折り紙付き。地元でこの店を知らない人はまずいないそうだ。
4種類の飲み比べセットがお勧めだが、どんどん新しい種類のビールがラインアップに加わるので、店に来るたびに初めての味に出会うことになる。だからいつまで経ってもこのパブを「制覇」することはできない。

ビールのお供にはじっくり煮込んだスペアリブがお勧めだ。ホロリホロリと肉が骨から離れる。バーベキュー・ソースとの組み合わせが最高なのだ。
ここ
ベ・サン・ポールは、おいしい食べ物だけではなく、多くの芸術家が創作活動に取り組んでいる街でもある。

1920年代に活躍したカナダの芸術家集団「グループ・オブ・セブン」のメンバーが創作活動を行ったことも、ベ・サン・ポールに芸術家が集まったきっかけとなった。
ちょっと覗いてみたくなるショップばかりが並んでいて、遊び心に溢れたこの街は散策にぴったりだ。

ぶらぶら歩いていると、芸術家の銅像が現れたり、本当に暖かそうでカナダの冬にぴったりなウールの靴下がぶら下がっていたり。ベ・サン・ポールでの街歩きは、あっと言う間に時間が過ぎていってしまう。
そんな街で2人の若者がカフェで出会い、竹馬に乗ったり火を吹いた入りしていたのだ。

2人がベ・サン・ポールで出会ったから「シルク・ド・ソレイユ」が生まれた。ゴルティエ氏はPRビデオでこんなことを言っている。
「歴史と伝説に満ちたこの有名な山の、そのどこか奥深くには、まだ誰にも発見されていない宝物が埋まっているかのように感じられます」
シャルルボアからは、これからも人々を魅了する「宝物」が生まれ続けるのかもしれない。

この記事は2014年の取材に基づき、カナダシアターhttps://www.canada.jp/に掲載したものを加筆・修正しています。

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しあわせ写真

ベ・サン・ポールの街並み

「グループ・オブ・セブン」のメンバーが創作活動を行ったことがきっかけで、ベ・サン・ポールには芸術家が多く集まるようになり、一層魅力的な街になったのだ。