旅の物語

「TSUNAGARI(ツナガリ)旅」に出よう

第6回 ツナガリが見えてくる

函館、そしてカナダ

〔写真:駅前を走る路面電車と北陸銀行の赤い看板〕
JR函館駅前を路面電車が走っている。そのうしろ、駅の真ん前のビルに「北陸銀行」の赤い看板が見える。かつて僕が2年ほど暮らしたことのある富山市に本店を持つ北陸銀行が函館など道内各都市に店舗を構えているのは、明治時代に本州から北海道に渡った開拓民の実に3割を北陸出身者が占めるからだ。

〔写真:富山では当たり前の「昆布のおにぎり」〕©(公社)とやま観光推進機構
カナダも移民の国だが、北海道もまた本州各地からの移民によって拓かれた地。富山などから多くの人が新天地を目指した。もともと富山市の東岩瀬の港は江戸時代に北前船の寄港地として栄え、富山からは米や酒が北海道に、北海道からは昆布やニシンが富山に運ばれた。だから富山県民は大の昆布好き。富山市の昆布消費量は全国平均の2倍だし、富山では
昆布のおにぎりというと「とろろ昆布」をまぶしたおにぎりが出てくる。

〔写真:富山でぜひ味わいたい昆布じめの刺身〕©(公社)とやま観光推進機構
富山では新鮮な刺身だけでなく「昆布じめ」もお勧め。昆布の風味をまとい、ねっとりと熟成した白身魚はまた格別なのだ。そんな富山県民は明治時代、北海道の根室や稚内に出稼ぎに行き、昆布漁に従事していた。北方領土の歯舞群島や色丹島に渡る人も多くいた。

〔写真:生地のあちこちに見られる「清水」〕©(公社)とやま観光推進機構
だから旧ソ連に占領された方領土からの引き揚げ者は北海道に次いで富山県が全国で2番目に多い。中でも多いのが黒部市だ。黒部ダムのイメージから山を連想しがちだが、実際の黒部市は山から海へと細長い。その海に面した生地(いくじ)という港からたくさんの漁師が歯舞群島などに渡った。黒部の山々から下ってきた水は生地のあちこちで「清水(しょうず)」と呼ばれる湧き水となる。黒部に行く機会があったら是非この名水を味わってほしい。

〔写真:木村先生の著書「カナダ歴史紀行」〕
僕が尊敬するカナダ研究者、故木村和男先生は北海道小樽市の出身で、そのルーツを富山県に持つ。著書「カナダ歴史紀行」(筑摩書房)のあとがきで、高校の修学旅行で初めて京都を訪れた時の感想をこう記している。
「これが日本だったのか」と驚いた僕自身が、間違いなく「植民地人」だったのだ。
富山から北海道にやって来た“移民”としてのルーツが木村先生をカナダ研究に駆り立てた。さまざまなツナガリを感じることで、旅はますますおもしろいものになっていくのだ。
⇒〔続きを読む〕第7回 愛された豆コンシロ

 

しあわせ写真

路面電車と北陸銀行の看板

JR函館駅前で見かけた路面電車と北陸銀行の赤い看板。かつて富山に暮らしたことのある僕には、実に感慨深い光景に映ってしまうのだ。