旅の物語

ケベック謎解きの旅

第1回 「謎解きの旅」が始まった

カナダ・ケベック州

今回、僕はカナダの歴史に触れる「謎解きの旅」に出るため、ここケベック・シティへとやって来た。ケベックこそカナダ「始まりの地」なのだ。僕が今、踏みしめている石畳の下には、カナダという国がどのようにして始まり、どんな道のりを歩んできたのか、その歴史と「謎」が何層にもわたって積み重なっている。

サミュエル・ド・シャンプランというフランスの探検家が大西洋を渡り、セントローレンス川を遡り、突き出た岬の上に丸太の砦を建設したのは1608年のこと。日本では江戸時代が始まった頃だ。

この時、この場所から、カナダは建国に向けた第一歩を踏み出した。のちにカナダとなる北米の地は、もともと先住民が暮らす土地だった。そこに大西洋を渡って来たフランス人が植民地を建設し、戦争を経てそれはイギリスのものとなり、今のカナダへとつながっていった。

さて、いきなり「謎解きの旅」と言われても、シャンプランが砦を築いてから400年ほどしか経っていないカナダに歴史の「謎」などあるのだろうかと誰もが思うだろう。そんな人に僕はこうに問いかけたいのだ。僕らは一体、カナダの何を知っているのだろう、と。

カナディアン・ロッキーにナイアガラの滝、「赤毛のアン」にメープル・シロップ。極北の地にはホッキョクグマがいて、オーロラを見ることもできる。
それから?それから?
僕らはカナダについて、ほとんど何も知らないと言っていいだろう。

僕はケベックに向かう途中、トロント空港のショップで、赤いカエデの葉っぱとともにビーバーが描かれているマフラーを見つけた。赤い葉はメープル・シロップを生み出す砂糖カエデ。カナダの国旗にもこのカエデがデザインされている。
誰もが知る砂糖カエデとともに、なぜビーバーが並んで描かれているのか、その理由などほとんどの日本人が知らないだろう。しかしよく目を凝らしてみると、カナダでは砂糖カエデに負けないぐらい、しょっちゅうビーバーを目にするのだ。
 

ビーバーはさまざまなマークに使われるだけではない。カナダ人はみんな「ビーバーテイル」というシッポの形のお菓子を愛している。ビーバーのことを知らなければカナダについては何も語れないぐらい、この動物はカナダにとって極めて重要な存在なのだ。そして僕はビーバーどころか、メープル・シロップのことすら何も分かってはいないことを気づかされた。なにしろメープル・シロップは本来、「シロップ」じゃなかったなんて想像すらしていなかった。

さらに言いたい。ビーバーやメープル・シロップなんて、実は「謎」としてはまだまだ可愛いものだった。日本人ならほとんどの人が、この「ボノム」というキャラクターの存在を知らないはずだ。しかしカナダでは、時の首相がいっしょに写真におさまってご満悦になるぐらいの人気者なのだ。

そしてこの陽気なスノーマン、ボノムにこそ、カナダ建国の歴史に関わる驚くべき「謎」が秘められていたのだ。

僕が体験した「謎解きの旅」は、カナダを旅する多くの人への提案でもある。つまり、カナダを旅しながらいろいろなものを見たり、聞いたり、味わったりするだけでは、まだまだ本当のカナダの素晴らしさに触れてはいないのではないか、ということだ。
「謎解きの旅」を通じてカナダの歴史や奥深さに触れることができたら、カナダの旅は何倍にも楽しいものになるはずだ。

この旅を終えた時、きのうまでのカナダとはまったく違う、新しいカナダが目の前に立体感を持って立ち上がってくるだろう。さあ、僕といっしょにカナダの新しい魅力に触れる「謎解きの旅」に出発しよう。

この記事は2014年の取材に基づき、カナダシアター https://www.canada.jp/ に掲載したものを加筆・修正しています。

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しあわせ写真

サミュエル・ド・シャンプラン像

ケベック・シティのランドマークである「ホテル・シャトー・フロンテナック」の前に立つサミュエル・ド・シャンプランの像。フランスからやってきたこの探検家が今のケベック・シティに丸太の砦を築いたところからカナダ建国への道のりが始まった。