旅の物語

ケベック・シャルルボア しあわせキュイジーヌの旅

第11回 冬の誘惑

ケベック州シャルルボア

ケベック・シティから東へと向かい、最後にたどり着くシャルルボアの極上リゾート地がラ・マルベ(La Malbaie)。ここにあるホテル「フェアモント・マノア・リシュルー(Fairmont Le Manoir Richelieu)」には、静かな時間を求める人たちがカナダ国内やアメリカからやって来る。目の前のセントローレンス川に向かって打ち下ろしていくようなゴルフコースは、このホテルの代名詞だ。

僕が取材した時もティーグラウンドに案内され、「ゴルフをやるんなら打ってみるか」と勧めてもらったのだが、なんだかその気になれなくて遠慮しておいた。だってあいにくの天気で霧がかかっていて何も見えないんだから。
晴れていれば、写真のような素晴らしい景色を見ることができたはずなのだが。

もう1つ、このホテルの魅力は極上の料理だ。料理長のパトリック・ターコットさんが僕を迎えてくれた。
かなり有名な一流シェフなのだが、写真を撮る段になったら、わざわざサーベルでシャンパンを空けるポーズまで取ってくれた。

パトリックさんは特別に、ホテルの料理人の中でもトップにだけ使用が許される料理長室にも案内してくれた。
ホテルの味を守ってきた歴代の料理長だけが使える部屋。大きな風格あるデスクのほかに、10人以上座れそうなテーブルがあり、ここで毎日、パトリックさんを中心にお客を楽しませるための「戦略」が練られている。
そしてディナーで出てきたのがこんな料理。

牛肉らしい牛肉、と言って理解してもらえるだろうか。日本では「サシ」が入った肉が人気だが、これはそうではない。
ナイフを入れた時の適度な反発。噛み締めた時の食感。そして、さらにしっかり噛んでいくと口の中でジワジワ旨みが広がってきて、実に牛肉らしいのだ。

巨大なカレイ「ハリバット」、日本名「オヒョウ」も絶品だ。身は大きいけれど味わいは実に繊細。ナイフを入れるとホロリ、ホロリと身と身が離れる。
それでいて口の中では柔らかすぎず固すぎず、いい感じの弾力が舌を楽しませてくれる。

メイン料理もよかったけれど、デザートも最高だった。
シャルルボアの旅の連載を「しあわせキュイジーヌの旅」と名付けて本当によかった。どこまでいってもおいしくて、しあわせだ。

「フェアモント・マノア・リシュルー」はもともと、「リシュルー&オンタリオ・ナビゲーション(Richelieu & Ontario Navigation Company)」という船会社が作ったホテルだった。お客はカナダ各地やアメリカから、船に乗ってやって来るのだ。

だからホテルのマークは今も、船舶会社のホテルだった時と同じように、船の碇をモチーフとしたデザイン。そして、建物のいろいろなところに、このマークの中心部にある山形の3本線があしらわれている。

鉄の格子にも3本線。木製のドアノブも色の違う木を組み合わせて「さりげなく」3本線を表現している。
「マノア・リシュルー」に行く機会があったら、さりげなく3本線を探してみるのも楽しいかもしれない。

さて、ホテルの担当者は、ゴルフの季節もいいけれど冬もまた素晴らしい、「まるでパラダイス」だと言っていた。真っ白な雪とイルミネーション。ホテルの前にはアイススケートのリンクが設けられる。眼前に広がるセントローレンス川は、このあたりでは海水と淡水が混じりあっていて氷点下の冬でも完全には凍結しないそうだ。

冬にはケベック・シティから「マノア・リシュルー」まで、片道5時間のスノー・モービルのトレイルもあるんだそうだ。「今度、冬に来た時にはやってみませんか?」と笑顔で勧められた。
でも、本当は5時間走りっぱなしというのは大変なので「実はあまりお勧めはしませんけど」とのこと。なんだ、冗談だったのか。

ホテルを拠点に、周囲の豊かな自然と景色を楽しむ2時間や4時間、そして「フル・デイ」というコースもあって、走ったり止まったり、周囲を眺めたりしながらの4時間コースあたりがちょうどいいんだとか。
うなづきながら聞いていたけれど、僕が心の底で密かに「5時間走りっぱなし」に妙に惹かれていたことに関しては誰にも気づかれていないと思う。オーロラ取材の際に初めて乗って以来、忘れられないんだ、スノー・モービルが。なにせ信号も標識も右折も左折もなくて、とにかく雪原を自由にぶっとばせる。
ああ、冬のシャルルボアでスノーモービルを思いっきりかっ飛ばしたい。

この記事は2014年の取材に基づき、カナダシアターhttps://www.canada.jp/に掲載したものを加筆・修正しています。

⇒〔続きを読む〕第12回 しあわせすぎる夕食

 

しあわせ写真

「フェアモント・マノア・リシュルー」

「フェアモント・マノア・リシュルー(Fairmont Le Manoir Richelieu)」を拠点に、ホエールウオッチングや白イルカ「ベルーガ」を見に行くツアーにも参加できる。だからホテルのマスコットもベルーガなのだ。