旅の物語

ケベック・シャルルボア しあわせキュイジーヌの旅

第2回 列車はあの滝から出発した

ケベック州シャルルボア

ケベック・シティからシャルルボアに向かうには、ル・マシフ鉄道(Train of le Massif de Charlevoix)をお勧めしたい。おいしい料理を食べながら、雄大なセントローレンス川や紅葉の山々など、車窓に広がる景色を楽しむ、まさに「しあわせ」いっぱい、豪華列車の旅だ。
※取材後、ル・マシフ鉄道は運航が中止されてしまいましたが、「シャルルボア鉄道」で同じルートの旅を楽しむことができます。

列車の始発駅はケベック・シティの郊外、モンモランシー滝の目の前だ。「駅」と書いたけれど、滝の上へと伸びるゴンドラ駅がル・マシフ鉄道の駅舎も兼ねている。それにしてもだ、ここに来ると僕の左足の親指がうずくのだ。なぜかって?
冬のケベックで、凍ったモンモランシー滝のアイスクライミングに挑戦した。僕が望んだというよりもなんとなく登ることになったのだ。

日本を出発する前、適当に伝えておいた靴のサイズが合わず、実はこのアイスクライミングで僕は左足の親指の爪を見事に剥がしてしまった。「ケベック謎解きの旅」では、途中から足の親指をテープでグルグル巻きにしながら取材することになった。半年も経つのに、爪はまだ完全には生えきっておらず、しかも若干変な形で伸びつつある。

ついでに言うと、右足の親指の爪のダメージも相当なもので、剥がれはしなかったけれど、いまだに生え変わりの最中だ。だからうずくんだ、この滝を目の前にすると、僕の足の指が。
そんなことはとも
かく、そろそろ出発の時刻だ。列車の背後には白いモンモランシー滝と真っ青な空が広がり、ちょうどゴンドラが列車の真上を通り過ぎていった。本当にいい天気だ。空がなんて青いんだろう。

動き出した車内には、ガラス窓から朝日がいっぱいに差し込んでくる。目を明けていられないぐらいに眩しい朝日は、乗客である僕たちの体をもポカポカと温めてくれる。
車内にはゆったりした時間が流れている。乗客はみんなほどよく肩の力が抜けた感じ。美しい風景が現れても、騒ぐでもなく写真を撮りまくるでもなく、静かにその風景を楽しんでいる。

あったかくて、まぶしくて、目を細めながら外の景色に目をやっていると、コーヒーにミルク、バターやジャムが運ばれてきた。
角度のきつい朝日がミルクピッチャーに反射し、ジャムにはその光がとろんとした透明感を与えている。

僕はパンのかごからミニ・デニッシュとミニ・マフィンを選んだ。いくら「ミニ」とはいえ、さすがに3つは多いな、と思ってミニ・クロワッサンには手を出さなかった。まだまだ僕自身が、肩の力が抜けていないのかもしれない。
もっと肩の力を抜いていこう。少々太って帰ることになってもいいじゃないか。これから始まるのは「しあわせキュイジーヌの旅」なんだから。

この記事は2014年の取材に基づき、カナダシアターhttps://www.canada.jp/に掲載したものを加筆・修正しています。

⇒〔続きを読む〕第3回 「しあわせ」なチーズの王国

しあわせ写真

シャルルボアへと向かう線路

左手にモンモランシー滝、右手にセントローセンス川。列車は食の神様に愛でられた地、シャルルボアに向かって出発した。