旅の物語

ケベック・シャルルボア しあわせキュイジーヌの旅

第4回 可愛いけれど、おいしそう

ケベック州 モントリオール

「レ・ヴィアンド・ビオロジック(Les Viandes Biologiques)」は、シャルルボアでも知られたソーセージの店だ。朝食に出てきた「オーガニック・ミート・ソーセージとトマトのサラダ」に使われていたのも、この店のドライ・ソーセージだ。

「オーガニック」の名前が示す通り、ここでは1000ヘクタールの畑を使って安心・安全な自前のオーガニック飼料を作り、豚と鶏を育てている。毎週50頭の豚からドライ・ソーセージが作られる。
生肉をつぶし、塩や胡椒、ハーブなどと混ぜて豚の腸に入れ、発酵させる。製造過程で火はまったく使わない。

大きなものは6週間、小さなものは3週間、冷蔵庫の中で吊るしておくとドライ・ソーセージの完成だ。
ソーセージの表面が白いのは、カマンベールチーズなんかと同じように表面に菌が塗られているため。菌が肉から余分な水分を吸収することによって「ドライ」になるというわけだ。

スライスされたドライ・ソーセージを口に運ぶ。特徴は、発酵した肉と、胡椒やハーブが生み出す濃厚な香りだ。たくさんのソーセージが吊るされた冷蔵庫の中も、強い香りがいっぱいに立ち込めていた。

この店では、ワイルドマッシュルーム、ブルーチーズ、ナッツなど、いろいろなものを加えて幅広い香りがするソーセージを作っている。脂も結構あるので、こんな時はやっぱり冷えた白ワインなんだろうなあ。
飼育されている子豚たちに会わせてもらった。寄っていくと、食べ物をもらえるとでも思ったのだろうか、僕との間を隔てている柵にみんなで殺到してきた。悪いけど、今は何も持ってないんだ。

子豚たちは本当に可愛いくて、手を伸ばして「1人」ずつ、おしりを撫でてあげたいぐらいだ。一方で、縦に並んだ子豚たちのおしりを見ていると、だんだんとソーセージに見えてくるんだから、人間なんて本当に勝手というか、究極のご都合主義だと思う。
子豚たちは可愛くてしょうがない。赤ちゃんを見て、可愛くて食べちゃいたいくらい、という表現があるけれど、対象が子豚であっても人間であっても、そのあたりの感情ってのは共通する部分があるんだろうか。

ここでは豚だけではなく鶏もたくさん飼育されている。鶏舎を見せてもらったら、数え切れないほどの鶏にいきなり睨まれた。
こちらは子豚と違って結構おっかない。一斉に飛びかかって来られたらかなり怖いと思う。子豚みたいに食べちゃいたいぐらい可愛い、とは当然ならなかったけれど、この違いはなんなんだろうか。

「オーガニック・ミート・ソーセージとトマトのサラダ」のトマトもそうだけれど、ル・マシフ鉄道の料理に使われる野菜も一級品だ。
店舗の周りに大きなカボチャが山のように積まれている「レ・ジャルダン・ドゥ・サントル(Les Jardins du Centre)」では、新鮮で種類豊富なシャルルボアの野菜を見ることができた。
建物はセントローレンス川を見下ろす丘の上にある。青い空と紅葉した樹々。よく見ると樹々の中には真っ赤に色づいたリンゴもある。

そして斜面には、川面を背景に畑が広がっている。ここでシャルルボア自慢の野菜たちが作られるんだ。
ぼくの文章を読んだことのある人なら薄々、感づいていると思うけれど、僕は食材を間近で見るのが本当に大好きなんだ。
野菜もそう。人参やら蕪やらムラサキイモやら、いつまででもじっと見ていたいと思う。ただし、質のいいものに限るけど。
それにしてもだ。根っこや泥がついていたり、形も不揃いだけれど、日本のスーパーなんかで売っているのに比べて数段、おいしそうに思えるのは、シャルルボアの野菜が持つ「生命力」ゆえなんだろうか。

この記事は2014年の取材に基づき、カナダシアターhttps://www.canada.jp/に掲載したものを加筆・修正しています。

⇒〔続きを読む〕第5回 緑色のケチャップ

しあわせ写真

レ・ヴィアンド・ビオロジックのドライ・ソーセージ

表面に塗られた白い菌が余分な水分を吸収してくれるおかげで、ドライでおいしいソーセージができあがる。