旅の物語

ケベック・シャルルボア しあわせキュイジーヌの旅

第5回 緑色のケチャップ

ケベック州シャルルボア

シャルルボアでおいしくて新鮮な野菜をつくり続ける「レ・ジャルダン・ドゥ・サントル(Les Jardins du Centre)」。僕はここで、ケベックの人々に愛されている緑色のトマトケチャップと出会うことになった。

ケチャップと聞けば、誰もがあの赤いケチャップを思い浮かべると思う。この緑色のケチャップもそれらと同じように、材料はトマト。
ただし、使うのは赤く熟したトマトではなく、緑色のままのトマト。さらにほかにもろいろな野菜や果物を入れて緑色のケチャップがつくられる。

色のほかのもう一つの大きな違いは、このケチャップがさらさらのピューレ状ではなく、切った野菜の形が残っているところ。だから普通のケチャップのように「かける」とか「付ける」のではなく、食べる時は「乗せる」とか「添える」ことになる。
トマトや野菜、スパイスをいっしょに煮て瓶に詰める。これはケベックの人たちには馴染み深い冬の保存食なんだそうだ。

ケベックの人たちは瓶に詰めたケチャップを買うだけでなく、それぞれの家で自家製ケチャップを作るので、ここではケチャップにする前の青いトマトもたくさん売られている。
緑色のケチャップに驚いていた僕は、ひとくち味見させてもらってもう一度驚かされた。
甘酸っぱいこの味は、いろんな料理に合うことがすぐに分かった。豚肉のソテーなんかにたっぷりめに乗せたら最高だろうと思う。

ピクルスの代わりに、茹でたソーセージの横に添えるのもいいかもしれない。
いろんな野菜がいっぱいあって、楽しくて楽しくて店内をウロウロしていたら、もうすぐ畑でトウモロコシを収穫するから行ってみるといいと教えてもらった。
青空の下に畑が広がっている。斜面の向こうはもちろんセントローレンス川だ。

トウモロコシの畑というのは、刈り取った後も収穫前と変わらず幹がぴんと立っているので、どうやって刈り取るんだろうと常々、不思議に思っていた。トラクターで一気に、ということなら、畑には幹がペシャンコになって倒れているはずだ。
聞いてみたらなんのことはない、「手で収穫するんだよ」とあっさり言われた。数人の男性が、幹をかき分けてトウモロコシ畑に分け行っていく。

小型のブルドーザーみたいなのが畑を進んでいって、もいだトウモロコシを手早く前部の受け皿みたいなところに入れていく。結構、刈り残しも目立つけれど、みんなあまり気にしてるふうでもない。
勧められて、生のトウモロコシを食べてみることにした。皮をはぐと、薄い黄色と白のツブツブがぎっしりと詰まっている。

細い毛を手早く、おおざっぱに取り除いてガブリとかじりついた。とたんに全部のツブツブから一斉に「ジュース」が吹き出てきた。
口の周りというか、顔中にトウモロコシのジュースがブシャーっと飛び散った。
「ジューシー」って言葉があるけれど、これは「ジューシー」とか「みずみずしい」といったレベルではなく、ジュースそのものだ。

甘い。さわやかな、くどくない甘さだ。本当に新鮮で甘いトウモロコシって、実は「ジュース」なんだと思ってしまった。
新鮮で、誰が作ったのかが分かる安心なシャルルボアの野菜。しっかり味わわないと、これは本当にもったいないことだ。

この記事は2014年の取材に基づき、カナダシアターhttps://www.canada.jp/に掲載したものを加筆・修正しています。

⇒〔続きを読む〕第6回シルク・ド・ソレイユが舞い降りた

しあわせ写真

忘れられないトウモロコシ

収穫したてのトウモロコシの味が忘れられない。とにかくジューシーのひとこと。生で食べるトウモロコシのおいしさを実感させられた。