旅の物語

ニューファンドランド島から世界を語る

第6回 COD IS KING

ニューファンドランド島

「SCREECH」という名のラム酒を一気飲みすると、早速、店の人が冷凍CODを手に「オラ、オラ」という感じでフェイントを入れてきた。この過程はお約束なんだろう、笑顔でつきあったあと、ついにやってきたCODとのキス。スクリーチ・インを体験した日本人などそうそういないだろうと思うと、カナダ好きとしてはかなりの優越感に浸ることができる。

ニューファンドランドには「COD IS KING」という言い方がある。とにかくこの島の人たちは数百年にわたってCODを捕り、干し塩ダラをつくって生活してきた。CODがすべて、だからCODはKINGだった。
ところがいつのころからか、大型の外国船が島にやって来て、大きな網でCODを根こそぎにするようになっていった。

残念なことに、その中には日本の船も含まれていらしい。だから僕自身も白身魚のフライなどの形で、知らずにCODを食べていたのかもしれない。
CODの漁獲量は激減し、遠い昔から島とともに、ニューフィーとともにあったKINGは、あっという間に姿を消した。そしてカナダ政府は1992年、資源保護のためCODを禁漁にしてしまう。


店内では僕だけではなく、ほかのお客さんも次々と冷凍CODとのキスに挑んでいた。みんな度胸満点、スクリーチ・インを楽しんでいる。
COD漁が禁漁となり、ほかの産業も斜陽にあったニューファンドランド島はひどい不況に陥ってしまう。島を元気にしよう、何か盛り上がることをしよう、そんな思いからスクリーチ・インは生み出されたそうだ。

ニューフィーはCODのおかげで数百年も食べてこられた。だから漁師たちは、COD漁がいつまでも続くことを祈っていたに違いない。そしてこれは僕の想像だけれど、釣り上げたCODに「あしたも釣れてくれよ」とキスする漁師がいたかもしれないと思うのだ。
スクリーチ・インには「CODよ戻ってきてくれ」という思いが込められているのだと思う。そしてよそ者にとっては、スクリーチ・インは島にお邪魔するにあたってのKINGへのあいさつのようなものだ。

儀式が無事に終わるとこんな証明書ももらえる。ちゃんと僕の名前が書いてある。これで僕も、粗野で田舎者で、そして愛すべきニューフィーの仲間入りだ。KINGへのあいさつも済んでいるし、ニューファンドランド島の旅はますますおもしろくなりそうだ。(つづく)

※この記事は2018年の取材に基づき執筆しています。

しあわせ写真

ついに僕もスクリーチ・イン

ニューファンドランド島でKINGと呼ばれるCODとのキス。スクリーチ・インが終わると証明書がもらえる。これで晴れて島の仲間として認められるのだ。