旅の物語

永遠のカヌー

第4回 3つの「M」

オンタリオ州・アルゴンキン州立公園

アルゴンキン州立公園で初めて体験するカヌーの旅。初日の午前中、僕は早速、ムースに出会えうことができた。日本を発つ前、実は「お目当てのムースは見られなかったなあ」という帰国もあり得ると考えていた。

ところがカヌー探検が始まってすぐ、のんびりカヌーを漕いでいると突然うしろからガイドさんの声がした。「いたいた、あっち!」ー。遠くにムースの巨体が見える。逃げる気配などまったくない。
驚かせないよう静かにカヌーを近づけながら、ムースに望遠レンズを向ける。

口の周りから水草がたれている。間違いない、食事中だ。ムースには「ヘラジカ」の名前がある通り、巨大な体にヘラのような形をした巨大な角が生えている。メスには角が生えないからこのムースはオスだ。しかもまだ「ヘラ」のような形にはなっていないので、若いオスのムースであることが分かる。

 

静かに近づいたつもりだったのだが、若いオスは僕にカメラを向けられているのが気になり始めたらしく、背を向けて、というより、こちらにお尻を向けて急に走り始めた。食事の邪魔をしてしまったようだ。申し訳ない。ムースを含め、カナダにはそのイメージを代表するものとして、3つの「M」がある。ムース(Moose)、マウンテン(Mountain)、マウンティ(Mountie)の3つがそれだ。

マウンテンはもちろん、カナディアン・ロッキーに代表されるカナダの雄大な山々。残るマウンティとは「王立カナダ騎馬警察隊(Royal Canadian Mounted Police)」の愛称だ。ふつうはRCMPと省略して呼ばれる。赤いユニフォームと帽子が特徴的で、なんとなく知っている人も多いと思う。カナディアン・ロッキーには行ったことがあるし、今こうしてムースと出会えたので、3つの「M」のうち2つを制覇したことになる。いつかきっとマウンティ=RCMPも取材してみたい。

初日の午前中からいきなりムースに出会えたのは本当にラッキーだった。初のカヌー探検は上場の滑り出しと言っていい。そろそろ湖畔で昼食をとることになった。僕らがキャンプをするのは「レイク・トム・トムソン」という湖だ。ちなみにアルゴンキン州立公園には2400以上の湖沼群と、総計2100キロのカヌールートが設定されているという。多すぎてちょっと実感がわかない数だ。

ガイドさんにやり方を教えてもらい、まずは夜に備えてテントを組み立てる。こうした道具類もどんどん進化して便利になっているんだろう。僕のような素人でもすぐにテントを完成させることができた。湖畔でのランチはこんな感じ。トルティーヤの皮にイチゴのジャムやピーナツクリームを塗って、チーズにサラミを巻く。ただこれだけ。だけどすごくおいしい。僕は時々テレビで見る「キャンプで本格なんとか料理」みたいな企画にはいつも興ざめしてしまう。ここに来るまでに出会ったカナダ人はみんな気楽に自然を楽しんでいた。僕はやアウトドアは素人だけれど、最初の体験がこんな肩の力の抜けた、自然体のカヌーで本当によかったと思っている。
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シリーズ「永遠のカヌー」は2015年の取材に基いています。

しあわせ写真

僕が出会ったムース

アルゴンキン州立公園でのカヌーの旅。初日の午前中に早速、ムース(ヘラジカ)に出会うことができた。とはいえ、角がまだ「ヘラ」のような形になっていないので、これは若いオスのムースなのだ。