旅の物語

メープルシロップ ワンダーランド

第14回 春のパーティー・その2

カナダ・ケベック州

シュガーリング・オフ・パーティーで人気のシュガーシャック(砂糖小屋)をもう1件、紹介しておきたい。豚がサトウカエデの木をよじ登って甘い樹液を楽しんでいるというトレードマークを持つ「オーピエード・ドゥ・コショーン」というシュガーシャックだ。

モントリオール市内にあるレストラン「オーピエード・ドゥ・コショーン」が2008年、郊外にある砂糖カエデの林に囲まれた地にオープンしたのがシュガーシャックの「オーピエード・ドゥ・コショーン」だ。
フランス語で豚はCOCHON(コショーン)と言うそうだが、2キロ四方の砂糖カエデの林の中で4種類のCOCHONを飼い、メープルシロップを使った料理を提供している。

で、いきなりでなんだけど、COCHONたちはある時期にこんなことになってしまう。COCHONの頭をメープルシロップと水、塩に2日間漬け込み、小屋の外の巨大オーブンで焼き上げる。

最終形がこの写真。ピッグヘッド&カクテルソーセージ、ということだそうだ。このあたりはフランス系の方々と日本人の感覚は違うのが当たり前と考えるべきだろう。
中華料理だって子豚の丸焼きが出てくるし、日本では活き造りなんて「本人」がまだ動いているのに刺身として食べたり、生きたままを食べる「踊り食い」なんてものまである。
まあ、COCHONには申し訳ないけれど、このいい感じの焼き具合といい、照りといい本当に美味しそうだ。

こちらの料理は小ぶりのイカの中にダックの胸肉を詰め込み、メープルシロップとイカ墨のソースで仕上げてある。
彩りが鮮やかで、いわゆるシュガーシャックの豆とか豚肉とかオムレツとか、そういう素朴なイメージを完全に超越してしまっている。

シュガーリング・オフ・パーティーの料理を提供するのは2月から5月まで。キャパシティは150席。平日は17時と20時、土日は11時、13時、17時、20時のサイクルでお客を受け付けている。
11月に、翌年の2月から5月の予約を受け付けると、開始からたった45分で全営業日の予約が埋まってしまうそうだ。
それは、このシュガーシャック「オーピエード・ドゥ・コショーン」の人気のすごさ、ということでもあるし、いかにカナダの人たち、ケベックの人たちがシュガーリング・オフ・パーティーを楽しみにしているか、ということの証でもあると思う。

この林の中のシュガーシャックの前には、開店前から既に列を作る人たちがいた。一方の店内はと言うと、スタッフがデーブルのセッティングや料理の仕込み、デザートの準備などのため、慌ただしく働いていた。
開店時刻になると一斉に人がなだれ込んできて、あっという間に150席すべてが埋まってしまった。そのあとはまだ料理も出てきていないのに、わいわいがやがや。家族や友達同士、若い人、ご高齢の人、あらゆる組み合わせと世代の人たちの談笑によって、小屋の中はいっぱいになった。

シュガーシャック「オーピエード・ドゥ・コショーン」はたった45分で1シーズンが満席になってしまうから旅行者が訪れるにはなかなか難しいけれど、モントリオール市内のレストランなら大丈夫だと思う。
いずれにせよ、1度はカナダでシュガーリング・オフ・パーティーを体験してみてほしい。
伝統的な料理、斬新な料理、いろいろあるけれど、共通しているのはカナダの人々、ケベックの人々の「メープル愛」だ。

この記事は2014年ごろの取材に基づき、カナダシアターhttps://www.canada.jp/に掲載したものを一部、加筆・修正しています。

⇒〔続きを読む〕第15回 シロップの中のおじいちゃん

 

しあわせ写真

木を登って樹液をなめるというユニークなマーク

シュガーシャック「オーピエード・ドゥ・コショーン」のマーク。メープルシロップを最高にあうのが豚肉。その豚=COCHON(コショーン)が木を登って樹液をなめている。