旅の物語

永遠のカヌー

第11回 どこまでも、どこまでも

オンタリオ州・アルゴンキン州立公園

カナダの大地では、カヌーさえあればどこまでも、どこまでも行ける気がしてくる。そう思えるのは、カヌーを担いで陸上を移動する「ポーテージ」があるからだ。

カヌーを漕いで湖面を進んでいくと、木々の奥に黄色い看板が見えてくる。ここにポーテージのコースが設定されていることを示すマークだ。


ポーテージのコースと言っても、スタート地点はカヌーを漕ぎ寄せられるように浅瀬になっているだけ。毛皮交易時代のポーテージも同じようなものだったろうと思う。ここでカヌーを陸地に引き上げ、荷物をおろし、そのすべてを人が担いで移動するのだ。


カヌーをかつぐ際には船体をひっくり返し、真ん中あたりにわたされている「ヨーク」という棒を肩に乗せる。ヨークは肩に当たる部分がなだらかに削られていて、カナダのカヌーショップではこんなふうに、自分の肩にフィットするヨークを購入することができる。カナダでは、カヌーは漕ぐものであり、担ぐものだと僕が言うのも分かってもらえると思う。

さて、僕もヨークを肩にあててカヌーを担いでみた。なかなか重い。肩にヨークがずっしりと食い込んできた。ただし、重いから運べないというよりも、バランスが大切なように思える。その証拠にガイドさんは慣れたもので、笑顔でカヌーを担いでいる。うまくバランスを保てている時はさほど重く感じないのだが、人を支点にカヌーがシーソーのように上下動すると、バランスを修正するためにとんでもなくパワーを消耗する。


ポーテージを始めてすぐに気がづいた。僕はポーテージが「下手くそ」だった。だからコースの途中に、こんな感じでカヌーを立てかけて休むことができるスポットが現れると、心からほっとした。それにしても、毛皮交易の頃のポーテージって、どんな感じだったのだろうか。すぐに、休憩スポットが現れることなど絶対になかったはずだ。


それに、ポーテージはカヌーを担ぐだけではない。当然だがカヌーに積んでいた荷物も運ばなければならない。カヌーと荷物を途中で交代しながら担いで歩く。荷物にはキャンプで使ったテントや道具がぎっしり詰まっているのだ、こちらもなかなかの重さだ。僕が体験したポーテージは1キロちょっとぐらいの距離だ。それでも「下手くそ」だったので、ひどく肩が痛かった。

毛皮交易の全盛時代、巨大なカヌーは、モントリオールからアサバスカ湖というところまで、実に200回ものポーテージを繰り返して移動したそうだ。アサバスカ湖というのは、もう少し北に進むとオーロラが見えるノースウエスト準州、というあたりだ。雇われたカヌーの漕ぎ手たちは、そんな長距離かつ過酷な旅を繰り返すうちに、体がボロボロになってしまうことも多かったという。


時は流れ、アルゴンキンの森は、ものを運ぶためにカヌーを漕ぎ、お金のために重い荷物を背負う場所ではなくなった。豊かな自然の中で、子どもたちが楽しくキャンプをし、カヌーを漕ぎ、荷物を背負う場所になった。そして僕もこの森でキャンプをし、カヌーを漕ぎ、ムースやビーバーに出会うことができた。初めてのポーテージも経験した。本当に素晴らしく、得難い体験だったと思う。またカヌーを漕いでみたい。唯一、この旅で残念だったのは、僕が想像以上にポーテージが「下手くそ」だったことだ。
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シリーズ「永遠のカヌー」は2015年の取材に基いています。

 

しあわせ写真

ポーテージのコースを示すマーク

アルゴンキン州立公園のあちこちで見かけるマーク。ここからポーテージのコースが始まるという目印だ。カヌーと荷物を担ぎ上げ、陸上を移動する。これもカナダにおけるカヌーの楽しみ方なのだ。