旅の物語

ケベック・シャルルボア しあわせキュイジーヌの旅

第9回 おいしすぎる島(1)

ケベック州シャルルボア

シャルルボアというエリアには、恵み豊かな大地だけではなく、すべてが恵みに包まれたような島がある。セントローセンス川に浮かぶ「クードル島(Isle-aux-Coudres)」がそれだ。

ベ・サン・ポールからフェリーで渡ると、あっと言う間にクードル島に到着した。僕がまず訪れたのは、「シードリエ・エ・ヴェルジェール・ペドノー(Cidrerie et Vergers Pedneault)」というリンゴ農家だ。

リンゴから作るお酒「シードル」は、シャルルボアをはじめケベック州で盛んにつくられている。この農家ではシードル用のリンゴだけではなく、様々な果物を栽培していて、それらを使ったお酒やジュース、ジャムなどを製造・販売している。
セントローセンス川を臨む場所に、
やがてシードルになるリンゴが山積みになっていた。川の濃い青と空の薄い青をバックに赤いリンゴが実にきれいだ。

シードルづくりの手順を説明すると、ざっとこんなぐらいになる。
リンゴは収穫されたあと、どんなシードルをつくるかに応じて選別され、きれいに洗浄したあと細かく破砕(はさい)される
。砕いたリンゴに圧力をかけてギュっと果汁を絞り、タンクに入れる。
酵母を投入して1~2日するとブクブクと炭酸ガスが発生する。これが一次発酵。そのあと少し寝かせて沈殿物を取り除いたり、ろ過したり、2度目の発酵をさせたりといった工程を経てリンゴのお酒、シードルができあがる。

ここでは26種類のリンゴ、5種類のプラム、2種類のチェリー、4種類のナシを栽培している。だからシードルにプラムのジュースを混ぜたりすることでたくさんの種類のお酒をつくることができる。
中でも「わたしのお父さんの夢」というチャーミングな名前の「アイス・シードル」がここの看板商品だ。カナダ国内で何度も賞を獲得していると聞いた。
アイス・シードルというのは、枝に付いたままのリンゴの実を収穫せず、冬の外気の中でそのまま凍らせてから濃厚な果汁を絞って作るシードルだ。

「わたしのお父さんの夢」は4種類のリンゴを混ぜて作る。教えてもらえたのはそこまでで、混ぜる割合などは「企業秘密」だそうだ。
ちなみに、この農園ではマッキントッシュという種類のリンゴをたくさんつくっていて、「わたしのお父さんの夢」に使う4種類のリンゴの1つもマッキントッシュだ。アップルのコンピューターはこのリンゴから名付けられたが、スペルが微妙に違う。コンピューターは“Macintosh”で、リンゴの方は“Mcintosh”。リンゴのマッキントッシュはカナダの農夫、マッキントッシュさんが自生する新種のリンゴを発見し、栽培を始めたカナダ原産のリンゴなのだ。

たくさんのリンゴ、洋ナシ、プラムなどがそこら中に山積みにされていた。島全体が、フルーツの甘酸っぱいに香りに包まれているかのようだ。
クードル島は、本当に実り豊かで「おいしすぎる島」なのだ。

この記事は2014年の取材に基づき、カナダシアターhttps://www.canada.jp/に掲載したものを加筆・修正しています。

⇒〔続きを読む〕第10回 おいしすぎる島(2)

 

 

しあわせ写真

出荷を待つ

クードル島の「シードリエ・エ・ヴェルジェール・ペドノー」では、熟成を続けながら出荷を待つたくさんのお酒に出会うことができた。