旅の物語

メープルシロップ ワンダーランド

第5回 メープルシロップの大冒険

カナダ・ケベック州、東京都

メープルシロップには、もっともっと「冒険」してもらわなければならない。いきなり何の話だと思われるだろう。僕が言いたいのは、メープルシロップで味付けしたソーセージのサンドイッチが美味しいというぐらいでは、メープルシロップの無限の可能性を説明したことにはならないということだ。

メープルシロップでソーセージを甘く味付けするとおいしいという程度ではなく、メープルシロップの可能性をもっと引き出し、たくさんの人に新たなメープルシロップ料理に挑戦してもらいたいと思う。
そのために僕が訪れたのは、東京都青梅市、ケベック生まれのマリーさんのご自宅だ。

マリーさんは1976年に日本の大学に留学するため来日した。その後、日本で暮らしながらケベックの田舎料理の本を出版したり、薪ストーブを使った料理の紹介などをしておられる。だからマリーさんこそ、メープルシロップの「大冒険メニュー」を考えてもらうのに適任だと考えたのだ。

マリーさんのご主人は日本人の大工さんで、家の中には薪ストーブがあって、まるで美しいオブジェのように、割られた薪が棚に収められていた。
僕はマリーさんに、メープルシロップを砂糖やみりんの代わりにするのではなく、メープルシロップにあう、思いもかけない日本の食材や料理を考えてほしいとお願いしておいた。

そのマリーさんが選んだ食材はなんと長芋。淡泊な長芋をベーコンで巻き、フライパンで焼く。そこにメープルシロップを注ぎ入れる。メープルの甘さと長芋のシャキシャキ感がたまらない。
マリーさんはレンコンを使おうかとも考えていたそうだ。レンコンならいったん茹でてからベーコンで巻くのだろう。長芋とレンコン、どちらを使ってもメープルシロップの甘味とシャキシャキ感がしっくりくるはずだ。
マリーさんとは「ナスも合うかもしれない」なんて話にもなった。味を吸いやすいナスとメープルシロップを組み合わせたら、一体どんなことになるのだろうか。

マリーさんがフライドポテトを作り始めた。日本では普通ではないけれど、カナダの人にとっては、家庭で生のジャガイモからフライドポテトを作るのは当たり前だろう。ただし、日本人だけでなくカナダ人にとってもまったく当たり前ではないのが、マリーさんが作ってくれたフライドポテトの「たれ」だった。それは「メープル&タラコ」だった。

タラコの薄皮を取ってツブツブだけにし、メープルシロップと混ぜ合わせる。甘じょっぱいこの「たれ」をアツアツのフライドポテトにジュっとかけ、刻んだパセリを振りかける。この不思議なおいしさをどう表現したらいいんだろうか。
この「メープル&タラコ」は、フライドポテトのステータスをメインディッシュと付け合せの真ん中あたりまで引き上げてくれている。
「昔おじいちゃんは、朝ベッドから起きると『おちょこ』みたいなのでくいっと一杯メープルシロップを飲んでからひと仕事やっていたわ」とマリーさん。
まさに「朝メシ前」のひと仕事のための、手っ取り早いエネルギー摂取なんだろう。

マリーさんはかつて、NHKのドラマにアメリカ人女性の役で出演したそうだ。その際、ストーリーにあわせるためレモンとメープルシロップだけで1週間を過ごし、7キロも体重を落としたそうだ。メープルシロップはダイエットにいいのだ。またマリーさんによると、メープルシロップは二日酔いにも効くという。
まず、僕はこの取材のあと、マリーさんのおじいさんのように朝起きたらメープルシロップをくいっとやるようになった。おかげでなんだか元気な気がする。
一方、朝の「くいっ」が二日酔いに効くのかどうかは、なんとも判然としない。
効果を確認するためにはもう少し酒量を減らさなければならないだろう。たんまり飲んでおいて、あとは何とかしろと言われても、それはメープルシロップにとって酷ってもんだ。

この記事は2014年ごろの取材に基づき、カナダシアターhttps://www.canada.jp/に掲載したものを一部、加筆・修正しています。

⇒〔続きを読む〕第6回 サップが春を連れてくる・その1

しあわせ写真

僕の想像を超えたメープル料理

ベーコンで長芋をまいてフライパンで炒める。そこにメープルシロップを投入するという、僕の想像を超えたメープル料理