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「観光の力」は計り知れない(2)

カナダ、日本、そして全世界

バンクーバーの南、リッチモンド市に「リッチモンド・オリンピックオーバル」というスポーツ施設がある。2010年のバンクーバー冬季五輪開催にあたり、スピードスケートの会場として建設された。僕は2009年12月、あと数日で完成というタイミングでここを取材しているのだが、その際に、施設の建材には松くい虫の被害にあった木材が使われているという説明を受けたのを覚えている。

カナダ観光局日本地区代表、半藤将代さんの著書「観光の力」では、バンクーバーが五輪開催を前に「世界一グリーンな都市」を目指すという目標を掲げたことが紹介されている。グリーンというのは環境と調和し、ものを有効活用し、温室効果ガスの排出を抑え、といったイメージでとらえればいいと思う。今、みんなが強く意識しているSDGs(持続可能な成長目標)と同じ方向性の取り組みだ。

だからオリンピックオーバルは松くい虫にやられた木材で建てられたし、建設中の屋内にはフードバンクもあった。その写真も撮っている。にもかかわらず、当時の僕はあまりピンときていなかった。五輪のマークにはイヌイットの道しるべとも言うべき「イヌクシュク」がデザインされていたのだが、それについても「ふーん」ぐらいの感想しか持ち得ていなかった。しかし今、先住民の問題とどう向き合うか、先住民観光も極めて重要な取り組みとして注目されてきている。

当時、五輪招致にあたっては、市民の間に反対論も根強かったという。オリンピックよりもっと先にやることがあるのでは?というのがその理由だ。もっともな意見だと思う。だからバンクーバーは「世界一グリーンな都市」を目指すとともに、バンクーバーにある先住民グループと対話し、協調を図るという目標も掲げた。バンクーバーで暮らす誰もが歓迎できる五輪を目指すためだった。

当時、「世界一グリーンな都市」や先住民グループとの対話といったことをちゃんと認識できていたらなあと思う。今ならもっと深い取材ができたのにと思う。アホだったとした言いようがない。だから頑張って挽回しようと思う。そんなことを考えながら当時、撮影した写真を見ていたら、グランビルアイランドで撮ったサーモンの写真が出てきた。食いついて何枚も撮っている。のちに僕はカナダのサーモンにまつわる話にどっぷり浸かって取材し、原稿を書くことになるのだが、このあたりは過去の自分に一貫した「変態性」が確認できて実にうれしい。これからも真面目に、かつ変態的に、他人が掘り下げないようなことを掘り下げながらいろいろなことを語り続けていきたい。真面目なだけじゃあ、つまんないからね。

旅の物語(シリーズ)を読む
「メープルシロップ・ワンダーランド」
「ケベック 謎解きの旅」
「永遠のカヌー」
「カナディアンロッキーを越えて」

 

しあわせ写真

「リッチモンド・オリンピックオーバル」

2010年のバンクーバー冬季五輪の際にスピードスケートとして建設され、大会後は球技など地域の人が活用できる施設に生まれ変わった。10年以上経って開かれた2021東京五輪で、施設の有効活用のためにこうした柔軟性が感じられないのは、日本人としてあまりに寂しくてならない。