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「先住民」の国家元首

カナダ・オタワ

カナダのトルドー首相が6日、国家元首である「総督」にメアリー・サイモン(Mary Simon)さんが就任すると発表した。正確に言うと、首相はメアリーさんを第30代の「総督」に推薦し、イギリスのエリザベス女王がこれを承認したということだ。いずれにしても2021年7月6日はカナダの歴史に刻まれる日になるだろう。なぜならメアリーさんは、カナダの公共放送CBCが“Canada’s 1st Indigenous governor general”と伝えたように「初の先住民総督」になるからだ。

僕は以前、このWEBサイト「Portage」のブログ「オバマ・クッキーから見えること」で、ハイチからの難民だったミカエル・ジャンさんという女性が第27代総督となり、当時、カナダにやってきたオバマ大統領を接遇した話を紹介している。僕が伝えたかったのは、難民でも女性でもアジア系でも黒人でも、国王や大統領と同じ「国家元首」となり、外国からの賓客を接遇したりオリンピックであいさつしたりする、それがカナダという国なのだ、ということだった。メアリーさんの総督就任で、今後は「先住民でも」というひと言を付け加えなければならない。

「カナダ」が「カナダ」になる前、この地には先住民が暮らしていて、極北でセイウチやアザラシを捕ったり、大平原でバッファローを追ったり、太平洋沿岸でトーテムポール文化を花開かせたりしていた。さらにヨーロッパ人と先住民との間に生まれた「メイティ=メティス」と呼ばれる人たちもいる。

ファースト・ネーションズ(First Nations)と呼ばれる彼らは、あとからやってきたヨーロッパ人から、分かりやすく言うとひどい目に遭わされている。今でも差別や迫害がなくなったわけではないし、過去の悲しい出来事が新たに明らかになることもある。
次期総督メアリー・サイモンさんは、イギリス系カナダ人と極北の先住民のご両親の間に生まれたそうで、イヌイットの権利保護に尽くし、駐デンマーク大使を務めた経験もある。そんな方が、普段はイギリスにいるエリザベス女王の代わって、カナダで国家元首の仕事を担うことになった。

うがった見方をすれば、国家元首といっても権力があるわけでもないし、単なる名誉職では?と片付けることができるかもしれない。でも、日本で同じようなことが実現可能かと考えたとき、カナダはやっぱりすごいと思うのだ。
日本に各国要人を接遇したり、オリンピックの開会式や閉会式であいさつしたりするポストが仮にあったとしたら、きっと品のないオッサンどもがたくさん群がってくるだろう。とてもとても、女性や外国出身者や社会的マイノリティにそのポストが回ってくることはない。
生真面目に、当たり前のように理想を追求するカナダは、やっぱり魅力的な国なのだ。

旅の物語(シリーズ)を読む
「メープルシロップ・ワンダーランド」
「ケベック 謎解きの旅」
「永遠のカヌー」
「カナディアンロッキーを越えて」

 

しあわせ写真

モザイク国家・カナダ

マニトバ州ウィニペグの「カナダ国立人権博物館」で撮影した写真。来館者がカメラに収まり、その画像を博物館のホールの壁、一面に投影する。カナダはいろいろな国からやってきた人で成り立っている「モザイク国家」であることが一目でわかる、忘れられない写真なのだ。